「小芭内さーん、こんにちはー!」


小芭内さんに呼ばれ、屋敷に来たのは良いけれど門を叩いても返事が無い。
もしかして留守だったかと思いながらその場で少し待っていると、鏑丸君が門の隙間から顔を出した。


「あ、鏑丸君!こんにちは」


膝に手を当て鏑丸君を覗き込むと、小さな口が私の羽織りを咥えて引っ張り始めた。
案内してくれるのだろうかと思って笑いながらお屋敷にお邪魔すると玄関に人の足らしきものが見える。


「ぎゃぁぁぁ!!小芭内さんが死んでる!」


なんて叫んでみたのは冗談なのだけれど急いで走り寄ってみれば玄関先で小さくなりながら寝ている姿を確認した。
顔に耳を近付けて息を確認すると荒くもなっておらず寝ているだけなのだと分かる。


「どうしたんだろう」


とりあえず体格のそう変わらない小芭内さんの身体を何とか持ち上げ寝室に運ぶ。
前日は柱合会議だったけれどこんなに疲れる程の事があったのだろうかと思いながら畳に一先ず置いて布団を敷く。

手慣れすぎてる自分に苦笑いを浮かべ再び小芭内さんを布団の上へ移動させる。


「ふぅ、これでいいかな?」


心配そうに近寄る鏑丸君にそう言えば頬を可愛い舌が舐めてくれた。
小芭内さんてばこんなに可愛い子どこで見つけてきたんだ全く。

布団に移動してもまだ眠ったままの小芭内さんの柔らかそうで意外と硬い髪の毛に触れぼんやりと寝顔を見つめる。


「何か意外かも。人の気配とかに凄く敏感な感じがするのに」


兎に角もう少し休ませてあげようと布団から離れてとてとてと屋敷の廊下を歩く。
突き当りを曲がれば台所があるし、申し訳ないけれどお借りして少し食べれる物を作ろうと棚を見た。


「…不摂生め」


食事は数日取らなくても平気だと言っていたけれど、余りに物の少ない棚に溜息が出てくる。
義勇さんのお屋敷も私がお邪魔したての時少ないと思ったけれど小芭内さんはそれ以上。

相変わらずとろろ昆布はきちんと置いてあるけれど、基本自炊しないのだろう独り身男達は本当に仕方がない。


「あ、でも不死川様とかちゃんとしてそう。悲鳴嶼様も」


無一郎も一人で暮らしたら必要最低限の物しか置かなそうだけれど生活感皆無なのは多分ずば抜けて義勇さんと小芭内さんな気がする。

とりあえずある物で食事を作ってしまおうと卵や辛うじてあった葱を取って米を炊く。
本当ならば今日この後炭治郎の御見舞にも行く予定だったけどまだ動ける怪我ではなかった無かっただろうし夜にお邪魔すればいい。
禰豆子の様子も気になる所だし。

私がお世話になってからそのままの食器達をもう一度洗いながら米が炊けるのを待つ。
葱も刻んでおき、米が炊けた後鍋に入れて溶き卵を入れる。

別に病人では無い様子だけど、久し振りに食べるとなったら消化の良いものがいいだろうと考えてのお粥。


「月陽?」

「あ、小芭内さん。お邪魔してます」


ギシ、と音がして続け様に私の名前を呼ぶ小芭内さんに振り返って手を振る。
驚いた表情を浮かべている小芭内さんに気付いて鍋を退かしやかんをそのまま火に掛けそっちへ近寄った。


「何だ」

「着替えて来てください」

「は?」

「ご飯です」

「……はぁ、分かった」


詰め寄りながら小芭内さんの洋服を引っ張ればため息をつかれた。
寝起きだからなのかいつものネチネチ加減は無いし、少しぼんやりしているから別人のように感じる。

余程疲れる事があったんだろうと思いながら、鍋から小さい器へお粥を移す。
息をかけて冷ましながら、お湯の湧いたやかんを取ってお茶を淹れる。

それを食事用の机へ運んでいると、家用の着流しに身を包んだ小芭内さんが帰ってきた。


「はい、どうぞ。よく噛んで食べて下さいね!」

「…お前はいつから俺の母親になったんだ」

「え?お母さんになって欲しいんですか?仕方ないなぁもう…」

「失言だった。撤回しておく」

「ふふ」


乗り気な私に若干引いた顔をした小芭内さんはきちんと手を合わせてお粥に手を付ける。
その様子を見て満足した私は再び台所へ戻って後片付けを始めた。

見られながら食べるのは落ち着かないと思うし。


「もう怪我はいいのか」

「うっわ!!」

「何を驚く必要がある」

「早くありません!?」

「あの程度の量、遅い方だが」


突然背後に現れた小芭内さんに心臓が飛び出る程驚いていると可笑しそうに上掛けで口元を隠しながら目を細められる。

先程の仕返しかと思いながらきちんと水場に器を置いた小芭内さんにお礼を言った。





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