※冨岡視点
「義勇さぁーん」
「…」
「月陽って、何者なんです?別に疑ってる訳じゃないからそんな顔しないで下さいよぉ」
月陽が刀鍛冶の里で上弦と戦っていると伝令で聞いた俺は真逆の場所で雨音と共に鬼を狩っていた。
最近鬼の動きが活発化してから俺達の仕事が忙しなく入ってくる。
「月陽は月陽だ」
「そんなの知ってますよぉ。そうじゃなくて、どうしてあの子は鬼殺隊と交流も持ってるのに一人で鬼狩りをし続けてるのかって事!」
「…事情があるんだろう」
「本来育手に鍛えてもらった子は最終選別に送られる。あの子の腕前ならちょちょいのちょーい、でしょ?」
俺は雨音に聞かれた事にほとんど答えなかった。
答えられなかった。
黙ったまま道を歩いていると、頬を膨らました雨音に腕を引かれる。
「あれだけ好きになってて何も聞いてないのぉ?興味無いとか言わせないわよ」
「俺は、」
「ねぇ、義勇さんはあの子のどこが好きなのかしら。顔や性格を知るだけで十分なの?確かに顔もいいし芯の強さもあるわ。でもそんな子甘露寺ちゃんだって胡蝶ちゃんだってそうでしょ」
「…初めて会った時、やっと見つけたと思ったんだ」
「ふぅん?」
「初めて会った筈なのに、ずっと探し求めていたかのように」
月陽は容姿もさる事ながら性格もいい。
たまによく分からない時もあるが、真っ直ぐな瞳が好きだ。
俺だけに微笑んでくれたあの笑顔も。
何もかもが愛しい。
珍しく黙って俺の話を聞いてくれる雨音にぽつりと洩らせばふと初めて会った時の月陽の表情を思い出した。
驚いたような、嬉しそうな、そんな顔をしていた気がする。
「…何故、俺を見て喜んだんだ」
「え?」
狐の君とやらとして会った時、月陽は俺から逃げた。
それは勿論鬼殺隊と関わるのを避けたかっただけかのように思えたが、二度目。蒼葉殿の元で働く娘として会った時の表情を思い起こせばそれだけでは無いような気がしてくる。
「那田蜘蛛山以前に俺は月陽と会っているのか…?」
「え、何何?馴れ初めですか?」
腕を絡めてくる雨音を振り払うのも忘れ考え込む。
話せない事は無理に聞かないと約束した手前、その手の質問は控えてきたが何故か俺は大切な事を忘れている気がする。
最近柱の者達も月陽とそう何度も会った訳ではない筈なのに親しげにしている気がしなくもない。
「伝令ダズェェエ!!!」
「………」
「あらどうしたの?」
「上弦ノ肆、上弦ノ伍、その場に居た柱と鬼殺隊士により撃破ァダズェェエ!!」
「…ですって、義勇さん」
「月陽は」
「気ヲ失イ、蝶屋敷ニ搬送中ダズェェ!」
雨音の妙な鴉に咳払いして月陽の様子を聞けば蝶屋敷に向かったと聞かされ、屋敷に帰る予定で居た俺の足は方向を変えた。
「雨音」
「はぁい」
「2日程何処かへ出掛けていろ。俺の屋敷には絶対に近寄るな」
「あらやだ、女を連れ込む気ね!」
「文句あるか」
「んもーっ!月陽なら許す!」
許すも許さないも俺の屋敷なのだが空気を読んでくれた雨音にこれ以上言う事もないと走り出す。
「雨音さんが心配してたわよって伝えて下さいよね!」
「考えておく」
「相変わらず冷たいんだからぁ!好き!」
気を失ったと言う事は重傷なのだろうか。
搬送中と言う事は既にその場の治療は終えたという事だろう。
息も切れていないと言うのに、心臓が不安を訴えて痛い。
「月陽」
無事でいて欲しい。
そう思いながら走る足を早めた。
自分の側に降りてきた鴉に目をやり刀鍛冶での詳細を聞く。
「…そうか」
所々曖昧だが、上弦を相手した甘露寺や時透もどうやら無事だと聞いた。
竈門兄弟の事も聞き、少し耳を疑ったがそれは会った時かお館様から確認を取れればそれでいい。
無事だと言うのなら、それに越したことは無い。
「月陽モ無事ダ」
「お前は」
「傷モソコマデ深クナイ」
片目のない鴉。
度々手紙を届けてくれた紛れもない月陽の鎹鴉だ。
そこでまた違和感に気が付く。
この鴉は月陽と出会うまで俺の家に居た。
鎹鴉は鬼殺隊士に配属したその日から行動を共にする。
「……元々鬼殺隊に居た、と言うことか」
それならば俺を知っていた様な反応をする月陽にも頷ける。
「気ガ付クノガ遅イ、遅イ」
「仕方ガ、ナイノゥ…」
「お前達は知っているのか」
そう問えば鴉達は何も言わず、ただカァと返事しただけだった。
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