目を覚ますとそこは知っている場所だった。

薬品の香りが仄かにして、可愛らしい女の子の声がする。


「…気を失ったんだっけ」


起き上がって窓から景色を見れば窓の向こうに義勇さんが居る。


「うわっ!?」

「起きたか」

「起きましたけど…心臓が止まるところでした」


外側から無表情で立ってたらそりゃ驚くに決まっている。
寝起きで心臓が飛び出しそうになるくらいには驚いたけれど、それを気に止めることも無く窓から入る義勇さんに靴は脱いで下さいねとお願いした。

と言うか何故普通に入ってこないのだと思ったけれど。


「身体は」

「あ、大丈夫です。そんな事より炭治郎達はどうなりましたか?」

「命に別状はない」

「そうですか…良かった」


全員が無事だと言うことにほっと胸を撫で下ろしていると、未だに無表情の義勇さんから視線を受け首を傾げる。
あれ、何だかこれは怒ってるような。


「あの、義勇さん?」

「上弦によく出会すな」

「…確かに。遭遇率が高いですね」

「俺は、」


何かを言い掛けた義勇さんはこちらを見つめた後、口を閉ざしてしまった。
どうしたのだろうとその頬に手を伸ばそうとすると、こちらに向かう足音が聞こえてその手を引っ込める。


「あら、お取り込み中でしたか?」

「し…こ、胡蝶さん」

「しのぶでいいですよ。月陽さん」

「うっ…」

「胡蝶、月陽をいじめるな」

「虐めるなんて失礼ですね。友好的に話してるではないですか」


しのぶさんの前に立つ義勇さんを退かしながら怯える私を覗き込む。
深い瞳の色に飲まれてしまいそう。


「冨岡さん、月陽さんの傷を見るのでご退室願えます?」

「どうしてだ」

「脱いでもらうからです」

「…失礼した」

「お呼びしますから、適当に待ってて下さいね」


退室する義勇さんに笑顔のままで手を振ると、一瞬で真顔に戻ったしのぶさんがこちらを振り向く。
思わずその迫力に布団を引き寄せれば柔らかい衝撃と優しい香りに包まれ目を見開いた。


「何をしてるんですか、月陽さん」

「えっ、えっ!?しのぶさん?」

「あのポンコツさんはまだ思い出さないのですね」

「!」


抱き着いてきたしのぶさんに驚きながらも腰に手を回せば少しだけ震えた声に思わず黙ってしまった。


「…ごめんなさい。柱ともあろう者が血鬼術で記憶を操作されるなんて」

「ま、待って下さい!これはしのぶさんが謝る事では…」

「でも、ずっと探してたんですからね」

「…ごめんなさい」


キュ、と福を握ったしのぶさんに謝る。
申し訳ない気持も、嬉しい気持ちも混じり合って涙が零れそうになる。

顔を上げて睨んでるのか眉を寄せたしのぶさんに笑いかけると頬をつねられた。


「時透君も伊黒さんも、冨岡さんも貴女が居ないせいで大変だったんですから」

「あぅ…」

「それにこんなに怪我して」

「猗窩座の時よりはマシですけどね」

「煉獄さんは、思い出してくれてたんですね」

「…はい。まさかの1番最初に」

「だから何度も狐どんと月陽さんの名前を言い間違えそうになってたんですか」

「えぇっ!?」


思わぬしのぶさんの暴露に目を剥いて驚く。
いや、確かに嘘が下手くそな気がする。

それでも必死に誤魔化そうとしてくれてたのか、そう思うと杏寿郎さんの優しさが伺えて拳を握った。


「なので柱全員、貴女が狐の君なのではないかと話していたんですよ。あ、甘露寺さんは気付いていないようでしたけれど」

「あはは…」

「因みに記憶がある方は誰なんです?私が知ってる限りでは甘露寺さんと宇髄さんですが」

「無一郎と小芭内さんも記憶を取り戻してくれました。と言うか宇髄様も覚えてくれてたんですか!」

「えぇ、お見舞いに来てましたよ」


そう言って指差したしのぶさんの視線の先には綺麗な花が飾られていた。
派手な色が宇髄様らしくて何だか笑えてくる。


「あぁ、それと…炭治郎と禰豆子も覚えていてくれました」

「竈門君が?」

「炭治郎と禰豆子の件、私も義勇さんと一緒に居ましたから」

「…そうだったのですね」


少し驚いたようにしのぶさんは目を丸くした。
それから私は手短にこうなった経緯を話せば静かに頷いて全てを聞いてくれる。


「…分かりました。もしそのような情報が入り次第月陽さんに連絡しましょう」

「ありがとうございます」

「さて、余り話し込んでしまうと外で冨岡さんが覗きをしかねないので私は一度退室しましょうか」

「え!」

「また今度、甘露寺さんと伺いますね」

「は、はい!ありがとうございました!」


包帯を変え終わったしのぶさんはゆっくりと席を立ち扉を開けるとすぐ目の前に義勇さんが無言で立っていた。
だから怖いですって。


「お待たせしました。どうぞ」

「あぁ」

「月陽さんはこちらに留まっても、帰ってもどちらでもいいですからね」

「え!?」


それでは、と私の言葉も聞かずにしのぶさんは行ってしまった。







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