ここに来て数日。
まだ刀が出来上がっていない私はぼんやりと空を眺めながら里を歩いていた。

こんな風に何日も鬼を狩らない日は鬼殺隊に入ってから無かったことなので、折角だしと毎日散歩へ出て森を駆け回る。

腰に刀が無いと言うのは違和感だけれど身軽な状態に慣れないよう失敗作と言っていた日輪刀をお借りしていた。


「…何か、聞こえた」


何故だろう、とても嫌な予感がする。
気のせいだろうかと思う程の小さな悲鳴が聞こえた温泉のある方へ走っていく。

そこには大きな金魚の様なものが動き回り、辺りに血や人の一部が転がっていた。


「鬼!?」


刀を構えここまで鬼が侵入していた事に気付かなかった私は目の前の金魚を壺ごと叩き斬った。
この里には私以外に炭治郎や無一郎、不死川様の弟が居るはずなのに誰一人として気付かなかったと言うのか。

血濡れた里の人のお面を拾い上げ唇を噛んだ。


急いで知らせなければと走り出せば、既に里には無数の敵が配置され人々が襲われている。


「こんな事ならもっとちゃんとした刀を借りておけば良かった…!皆さん、早く逃げて!」


研ぎきれていない刃は色も変わらず小物でさえ斬るのに相当な力を要する。
両手でしっかり急所を狙い定めなければ切断する事も一苦労する為に体力が奪われていく。


(無一郎や炭治郎達はもう応戦してる筈。どうにかしてもっとちゃんとした刀を用意してもらわなきゃ)


ここまでされて尚気付かなかったとなれば、上弦の鬼の仕業かも知れないと目視で確認できる敵を斬ればどこかの屋敷から大きな音がした。

まるで台風でも来たかのような轟音にそちらへと顔を向ければ炭治郎達が寝泊まりしているはずの宿で。


「炭治郎、禰豆子…!」


辺りを見渡し、適当に鍛冶場へお邪魔して部屋の隅に固まっている里の人へ話し掛ける。


「すみません!どんな日輪刀でもいいから、研ぎ終えた刀を貸してくれませんか!」

「こ、ここは水減しする所だから刀は無いんだ!」

「ではどちらに行けば刀は借りれますか?」

「ここより南に日輪刀を保管する場所があります!」

「ありがとうございます!貴方達も早く見つからないように隠れて下さい!」


しっかりと研摩されていないせいで刃こぼれが激しくあと何回か敵を斬れば恐らく折れてしまう。
その前に何とかして刀を手に入れなければ被害は更に増える一方になる。

水減しの人から教えてもらった方向へ走ると、また更に術で作られた敵に襲われている人々が居た。


(お願い、間に合え…!)


目の前まで迫った魚が転んでしまった女性へ向かって勢い良く手を振り下ろす。


「月の呼吸…弥生!」


歯を食いしばり一番早い技を出し何とか腕を切り離すけれど、あくまで切り離しただけだ。
腰を吐かしたまま後退る女性を守るのならばこの異様に大きい魚を倒さなくてはならない。


「お願い!誰か女性に手を貸してあげて!」

「は、はい!」

「出来るだけ見つかりづらい所に隠れて下さい。この里は今どこも危険です」


女性を助け起こしに来てくれた男性に一言残して刀を構える。
あと何発持ってくれるだろうか。
せめてこの魚を倒すまでは持ってくれないと困る。


「貴女、その刀…!」

「刀が壊れる前に早く!私の事は大丈夫だから!」

「必ず貴女に日輪刀を届けます!どうかそれまで持ちこたえて下さい!!」

「頑張ります!」


叫びながら女性を連れて走り出した刀鍛冶の青年に礼を言いながら、腕を斬られたせいで怒り狂っている魚に向き合う。

せめて刃こぼれしていても自分の日輪刀であったならここまで力押しにならずに済んだと思うけど、無いものは仕方が無い。


「この里は絶対に取らせないよ」


刀鍛冶の里の人々は鬼殺隊にとってなくてはならない存在だ。
ここの人達が日輪刀を打ってくれるから私達はいつも鬼に立ち向かっていけている。

地を蹴って勢い良く足元へ潜り込み腱を狙って刀を横に振る。
どんなに術で作られた存在だとしても、体を支える部分がやられたとなれば大きな動きはできないだろう。

案の定態勢を崩して地面に崩れ落ちた魚の両腕を一気に斬り落とす。

後は硬そうな胴体を斬れば消える筈。


「頼む!!君に掛かってるんだ!」


腕を刎ねた際に切っ先が折れた日輪刀を飛び上がって勢いを付けたまま胴へ突き刺す。
私の体重を掛けた刀は何とか壺に深く突き刺さり魚の体がぼろぼろと消えていく。


「ごめんね」


握った日輪刀の先を見れば根本から折れてしまって、刃の部分はどこにもなくなってしまっていた。
失敗作だと言われていた刀だけれど、既に10人近くの命は救っているのだ。

丁寧に扱えなかった事を謝りながら走り出す。
炭治郎が寝泊まりしていた所が何より大きな音がしていたし、すぐに救援に向かわなきゃいけないだろう。

その前に早く刀を手に入れなくちゃいけない。
刀が無ければ誰かを助けることも自分の身も守れない状況を早めに解決しなくては。

出来る限り迅速に、無駄な戦闘は控えるよう隠れながら里を南に進んだ。





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