朝早く、雀の声で目を覚した。
何だか不思議な夢を見た気がする。

身体を起こして横を見ればまだ無一郎はすやすや寝息を立てて眠っていた。


「有一郎君」


無一郎のお兄さん。
生前私は一度しか彼を見たことが無い。

口調は厳しいものではあったけど、無一郎への確かな愛情を含んだ瞳をしていた気がする。

そっと髪を撫でて寝顔を眺めながら前に落ちてきた自分の髪もかきあげた。


「さて、お風呂入ってこようかな」


早起きして良かった。
この時間なら蜜璃さんも居なさそうだしきちんとお風呂に入れそう。

まだ眠る無一郎を確認して部屋を出て温泉のある場所へ向かった。


「………えっ、半裸!?」

「あ?」

「うわわ、おはようございます」


お風呂に向かう道中、身体の大きな人に出会った。
何故半裸なのか分からないけどつい言葉にしてしまった私に振り向いた男性は仮面を付けている。

と言うことはここの住民なのだろう。
にしてもガタイが良すぎる。

ぶっちゃけ私なんかより鬼殺隊向いてると思う程だ。


「お前もしかして月の呼吸の奴か」

「あ、はい!」

「ふーん」

「……あの、近いです…いだだだ」


面の口の部分が頬に突き刺さってちょっと痛い。
身長も高いし表情を変えない面がこんなに近寄るとちょっとどころではないくらい怖いし、分厚い胸板をやんわり押し返す。


「こんな細い腕で本当に鬼が斬れんのか?」

「結構きたえてるつもりではいるんですけどね」

「面白え女だな。刀打たせろ」

「刀関係ありました!?今鉄穴森さんが打ってくれてるので…その、申し訳ないのですが」

「何だつまんねーな」


そう言えば興味を失くしたのか、半裸の人は去って行ってしまった。
何だか嵐のような人だったと思いながら今度こそ温泉へ向かう。

朝方のお風呂はとても景色が良くて、面もないからゆっくり出来る。


「生き返るー!!」


服を脱いで身体全体を洗い流し湯に浸かれば朝方の寒さとお湯の暖かさの差が気持ちいい。


「義勇さんと来たかったなぁ」


またいつか温泉に行きたい、そう思いながら岩に腕をついて頬を乗せる。
前に行った所は冬の山奥で、小芭内さんが招待してくれた宿だったけれどとても良かった。

義勇さんの記憶には無いけど、思い出はちゃんと私が覚えているから大丈夫。


「よーっし!出よう!」


パシャ、と音を立てて顔にお湯を掛け立ち上がる。
服を着ながら空を見上げ、道を下っていく。

平和だなと思いながら歩いていれば、どこからか声が聞こえてくる。


(この声は小鉄君と…朝の半裸の人?)


誰かを気遣っているような声で話しているから何かあったのだろうと声を頼りに森の中へ逸れて行けば、地面に倒れた炭治郎を囲む小鉄君と半裸だった人が様子を窺っていた。


「えっ、何で炭治郎が倒れてるの!?」

「うわっ!月陽さん!」

「おはよう小鉄君。何があったの?」


余り良さそうな雰囲気ではない事に気付いて小鉄君に事情を聞いてみれば、その内容に眉を寄せた。
炭治郎を気絶させたのは多分無一郎だ。

どうしてそうなったか理由はよく分からないけれど、俯いた小鉄君が恐らく鍵を握っているんだろう。


「私の弟がごめんね」

「えっ、あいつ弟なんですか!?」

「似てねぇな」

「血は繋がってないからね。でもあの子は私にとってとっても大切な弟なの。本当にごめんなさい」

「い、いや…月陽さんが謝る事じゃ…」


無一郎は無闇矢鱈に暴力を振るう子ではない。
けれど、悪意無く実力行使をしてしまう話は何度か聞いたことがあるからもしかしたらそれで炭治郎は気絶をしてるのかもしれない。


「小鉄君も怪我はなかった?私からよく言っておくね」

「………言って分かるんですか?」

「分かるまで話すよ、何度だって」

「随分気に掛けてるじゃねぇか」

「言ったじゃないですか、私の弟だって。大切だからあの子が間違ったらしっかり叱るのが私の役目です」


無一郎にどんな考えがあったにせよこんな風に人を傷付けて良い理由にはならない。
暴漢ならまだしも、気絶しているのは炭治郎だ。

きっと炭治郎も無一郎も真っ直ぐな子だから、方向性が真逆だったんだろう。

そっと地面に足をついて炭治郎の頭を膝に乗せる。


「炭治郎、起きて。炭治郎」

「あっ、瞼がピクピクしだした!コイツ起きる!!じゃあな!」

「う、うん」


炭治郎の頬を優しく叩いて起こし始めると、半裸だった人が慌てて森の中へ消えていってしまった。
何故だろうと思いつつも、炭治郎を起こす事の方が優先だともう一度名前を呼び掛ける。


「炭治郎」


その瞬間大きな瞳を開けた炭治郎が勢い良く起きて、頭をぶつけ合ってしまった。








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