※冨岡視点


月陽に拒絶されたのは初めてだった。

本来受け持った場所の見回りは終わり、ついでにと足を伸ばした彼女の住む町。

宇髄の報告で吉原に棲みついていた上弦の鬼の討伐が済んだ事を知った。

しかしいつになっても月陽から連絡は来ないまま、個人的に報告をしてくれた宇髄から彼女は伊黒が連れ帰ったと聞き胸がズキズキと痛んだ。

前に見かけた事もあるが、月陽は特に伊黒と仲が良い。
俺から見てもそう思うのだから、周りはもっと二人の仲をより親密なのだと受け取っているだろう。


「蛇柱ってあそこの店の子気に入ってるよな」

「俺この前一緒に笑って見つめ合ってたの見たぞ」

「は!?蛇柱が笑うってマジかよ…」

「名前を呼び合ってたしやっぱり二人ってそういう関係?」


前にそんな会話を聞いたことがある。
月陽の話題となると嫌でも会話の内容を拾ってしまう自分の耳が嫌だった。
彼女が蒼葉殿の店で働き、鬼殺隊の中でも憧れる者が多いのは知っている。

愛嬌も、芯の強さも、美しさも兼ね備えた月陽が好意を向けられない訳がない。

俺だって彼女に好意を向ける一人ではあるが、他の隊士とは違う存在だと自負しているつもりだ。

前に初めて夜を共にした時に月陽が言ってくれた言葉は俺だけに向けられた告白だった。


「……ずっと、か」


俺だけをずっと愛してくれていると言っていた。
ずっととはどういう事なのだろうか。

自室で明るくなり始める空を見上げながら考える。


ずっとと言う程月陽と知り合ってそう長くはない。
一目惚れをしてくれていたと言う事なのだろうか。
それにしてはどこか重みのある言葉だった気がする。


「どうしたらいいんだ」


何故拒絶されたのか、何故月陽が泣いていたのかが全く分からない。

本当は追い掛けたかった。
だが追い掛けられなかった。

振り払われたただそれだけの事が俺の足を鉛のように重くし、その場に身体が縫い付けられたように動けなくさせた。

会いたいと、名を呼んでほしいと願うのにまた拒絶されるのが恐ろしくてぬけぬけと自分の屋敷に帰ってきてしまい今に至る。

俺を見た時の様子もおかしかった。


「義勇さーん!帰ったら羽織は脱いで下さいって言ったじゃないですか!」

「雨音」

「何なんです?あの女に会ってから何か義勇さん変ですよ」

「何故お前が家に居る」

「何故ってそりゃ義勇さんの…って恥ずかしい事言わないで下さいよ!もう!」


はぁ、とため息をついて背中に抱きつく雨音の腕を剥がす。


「何度も言っているがくっつくな」

「いいじゃないですかぁ。私達特別な関係ですし」

「そんな関係になったつもりはない」

「あの夜の事忘れたんですか?」

「……知らん」

「えーっ!」


頬を膨らませた雨音に面倒くさいことはごめんだと座っていた縁側を立ち自室へ戻ろうと襖に手をかける。

しかしすかさず腰に手を回され俺はまた深いため息をついて振り返った。


「何だ」

「義勇さん、まだ眠くないでしょ?」

「…だからどうした」

「お付き合いしますよ」


ね?と首を傾げた雨音を見やり一瞬考えた俺は腰に手を回していた腕を剥がし今度こそ襖を開いた。

目の前には頼んでもいないのに出かける前まで一人で将棋をしていた場所から近い位置に布団が敷かれている。


「手加減はしないがそれでもいいか」

「勿論ですよ」

「なら来い。相手してやる」

「えへへ、了解です」


開け放した襖をそのままに俺達は自室へ入った。
月陽に拒絶されたせいか今日は優しくできそうにない。

既に正座した雨音は笑顔で俺を見上げていた。






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