あっさりと頸を落とした宇髄様は炭治郎達に近寄り、禰豆子の様子を眺めた。


「ぐずり出すような馬鹿ガキは戦いの場にいらねぇ。地味に子守り唄でも歌ってやれや」

「んな!?」

「ガァアッ」

「ちょ、宇髄様!」

「いんだよ。ここで宥められねぇならあいつらはもうここにゃ居られねぇ」


服を引っ張り宇髄様を責めるように顔を近付ければまた頭を強く撫でられる。
どうしてこんなに距離感が近くなったのかは分からないけれど、昔の様に戻れた気がして嬉しい。


「悪かったな、月陽。それだけは謝っておく」

「…?」

「嫁も善逸も取り戻した。後は上弦の鬼の頸を派手に取りに行くだけだ。行くぞ」

「は、はい」

「ちょっと待ちなさいよ、どこ行く気!?」


廓を後にしようとした私達に劈くような声が後ろから掛けられる。
その声に振り向いた私はふと疑問が浮かんだ。

どうしてこの鬼は宇髄様とこんなに会話をしているんだ。
泣き喚いてるだけで、消えてしまう焦りは感じられない。

身体も崩れていない。


「わぁあああああああ!頸斬られたぁ、頸斬られちゃったああ!お兄ちゃああん!!」


納刀した刀を構え、女鬼の身体が変形し始めた所へ二人で斬り掛かる。
けれど私も宇髄様も斬ったのはその場にあった帯や襖の欠片で、反転した先で女鬼の頸をくっつける男鬼の姿があった。


「もう一人…出てきた」

「泣いてたってしょうがねぇからなああ。頸くらい自分でくっつけろよなぁ。おめぇは本当に頭が足りねぇなあ」


女鬼は兄と呼んでいた。
ゴシゴシと火傷が治らない女鬼の瞳を撫でると、皮膚が再生している。

これが鬼でなければなんと微笑ましい光景だったのだろうか。
そんな事を思いながら慰める鬼の背後から二人で頸を狙う。

しかし刀を振り下ろそうとした瞬間振り向いた男鬼は一瞬で私達の後ろを取る。


「っ、ぐ…!」

「へぇ、やるなぁあ。攻撃止めたなぁあ」


頬や腕のあちこちが斬れ、宇髄様の装飾もバラバラと散ってしまう。

危なかった。
もう少し反応が遅れていたら殺されていた。


「殺す気で斬ったけどなあ。いいなあお前達。いいなあ」


男鬼は私と宇髄様を見ると、頬を掻きながら妬むように言葉を続ける。


「お前も、俺の可愛い妹には劣るがいいなあ。お前も、そこのお前も嘸かし持て囃されるんだろうなぁあ」

「何を言って…」

「妬ましいなああ、妬ましいなああ。死んでくれねぇかなぁあ」


ボリボリと引っかき傷を作るほど自分の皮膚を掻き毟る男鬼は目を血走らせながら謂れのない恨み言をぶつぶつと呟く。


「お兄ちゃん、コイツらだけじゃないのよ。まだいるの!アタシを灼いた奴らも殺してよ、絶対!アタシ一生懸命やってるのに。凄く頑張ってたのよ、一人で…!」

「まるで子どもみたい…」


わんわんと泣き散らし、まるで親に泣き縋るかのように男鬼へと報告する女鬼に眉を顰める。
ふと視線を宇髄様へ投げ掛ければこっちを見ないまま頷かれ、私達の背後に居る逃げ遅れた遊女二人に指で合図した。

分かってくれるかは分からないけれど、この場に人が少ない事に漉したことはない。

後は男性と女性の二人をどうにかしなきゃ。


「死ぬときグルグル巡らせろ。俺の名は妓夫太郎だからなああ」

「師走!」


あの二人は恐らく宇髄様が助ける。
腕を振るった妓夫太郎の攻撃による被害を減らす為に鎌を受け流し宙へ軌道を返させた。

ドクンドクンと嫌な音が身体の中で脈打つ。
口の端から血が垂れ落ち、膝を付きながらゆっくり呼吸を整える。

毒だ。
それもかなりの。


「さぞや好かれて感謝されることだろうなぁあ」

「まぁな。俺は派手で華やかな色男だし当然だろ。女房も三人いるからな」


また妬ましいと言い始めた妓夫太郎にそう言うと、流石に呆気にとられたのかぶつぶつ呟いていた口をぽかんと開けて宇髄様を見ている。
いや、うん。気持ちは分かるよ。
きっと誰もがそうなる。


「お前女房が三人もいるのかよ。ふざけるなよなぁ!なぁぁぁ!許せねぇなぁぁ!」

「っ、間に合えっ…!」


宇髄様の方へ走り、爆薬によって開けられた穴から落ちる二人を庇いながら落ちる。
少し火薬が抑えられていたとしても一般人からしたら吹っ飛んで当たり所が悪ければ逃した意味がない。


「す、すいません…!」

「いえ…さぁ、早く逃げて…っ」


後を追うように帯が二人を追撃するのを横薙ぎに払い宇髄様の居る2階へ向かう。
けれど。


「…、っう」

「………月陽」


視界が歪みふらつく。
呼吸でなんとか遅らせているけれど毒が強過ぎる。

死ぬのかも。

ふとそんな言葉が浮かんだ。
感覚が全く無い。
私は何もせずに死ぬのか。

杏寿郎さんの時もそうだった。


「……―――っ、死んで…たまるかっ…私は、もう…!」


失いたくない。
ガリ、と床を引っ掻きながら進むけれど、目の前が真っ暗になった。





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