「よし、もう完全復活!」
夜、月の見える山奥で鬼の頸を飛ばした私は血を払い納刀する。
綺麗に折れていたお陰か予定していた期間より短く完治した。
相変わらず狐面はしているけれど、お館様が命を撤回してくれたお陰でやりやすくはなった。
かー君を呼び、お館様へ報告をするよう伝えて山を降りる。
余り遅くなってしまってはまた蒼葉さんに心配を掛けてしまうから。
「月陽」
「え?」
「やっぱり合ってたな。よう、会いたかったぜ。狐面」
「…人違いでは」
気配も無く背後に降り立った存在に冷たく反応する。
きっとさっきかー君に話しかけていた所を聞かれていたかもしれないから無駄なのかもしれないけれど。
「まぁそう冷たくすんなよ。今回お前に頼みがあって来たんだ」
「頼みですか?」
「あぁ。お前を捕まえるつもりはない。だが言う事を聞かねぇなら力づくで捕まえる」
「それ頼みって言いませんよ」
「俺は祭りの神だからな!」
流石は元忍の宇髄様だ。
ずっと逃げ出そうとする機会を伺っているけれど、全くスキがない。
つけられていた事に気が付かない時点で私が逃げられない事は確定していたのかもしれないけど。
「お話は聞きます」
「おう、聞け!」
「………」
相変わらずだなぁなんて懐かしい気持ちに私はなるけれど、話している感じ私だと言う事を思い出していない様子の宇髄様に思わず面の下で半目になってしまう。
これ全く知らない人に対する態度なんだから祭りの神とやらは本当に凄い。
「吉原に潜入しろ」
「吉原ですか?」
「俺の嫁からの連絡が途絶えた。うちから隊士は三人居るが全員男でな。お前男の格好はしているが女だろ」
「……まぁ、はい」
「なら化粧の仕方は知ってるな。粗方どこに鬼がいるかは店も検討がついてる、手伝え」
高圧的な態度は置いといて、宇髄様の奥方様達からの連絡が途絶えたのなら放ってはおけない。
宇髄様がどれだけ奥方様達を大切にしているかは知っている。
「分かりました。情報を下さい。私にできる事は全力でやらせてもらいます」
「ほう…やけに判断が早いじゃねぇか」
「奥方様達が危険なのでしょう。早いに超したことはありませんから」
「達?俺は嫁がとしか言ってねぇが」
「………お嫁さんが何人か居てもおかしくない程お顔立ちが整っておりましたので」
「まぁいい、それを問い質すのは後だ。ならさっさと準備をしてこい。明日の昼吉原で合流だ、分かったな」
「はい」
内心肝を冷やしたけれど、奥方様達のが優先事項なのだろう。
特に深く聞かれずに宇髄様は姿を消した。
吉原、懐かしい。
義勇さんとお付き合いしたきっかけも色々あそこがきっかけだったような気がする。
須寿音さんは元気だろうか。
「また長期かもしれないって言ったら蒼葉さん怒るかなぁ…」
元忍である奥方様達が手こずる鬼なのだ、一日やそこらで帰れるとは思っていないけれど怒る蒼葉さんの顔を思い浮かべると申し訳無いと気が進まない。
けれど、鬼の居る吉原に潜入した奥方から連絡が途絶えたと言うのであればそれを放っておく事は出来ない。
三人居るのに誰一人として来ないのはどう考えても緊急事態だ。
「早く帰って休もう」
そう言えば宇髄様が声を掛けた隊士って誰だろうか。
女性的な隊士なんだろうけれど、男かぁ。
化粧すればどうにかなるのかな、なんて思いながら着物はどうしようかと悩む。
前に義勇さんと潜入した時に使った物はもうないし、と言うか私はこの年齢で買ってもらえるのだろうか。
「………よし、偽ろう」
17歳くらいなら大丈夫だろう。
花も恥じらう乙女の年だ。よし、そうしよう。
たかが3歳されど3歳。
「いつも愈史郎君の格好をしてるから化粧なんてしてないし、出来るか不安だなぁ」
化粧に少しの不安を覚えながらそんなに遅くない時間だし、まだ片付けをしているかもしれない蒼葉さんのお店に寄ってお迎えに行こうと足を向けた。
お店が見えてきた頃、中がぼんやりと灯りがついているのを確認してやはり蒼葉さんが居るんだなと扉を開ける。
「蒼葉さん、戻りました!」
「あらお帰り!」
「…帰ったか」
「ただいまです、義勇さん!じゃなくて、どうしてここに?」
扉を開けると、そこには蒼葉さんだけでなく義勇さんも居た。
私がご挨拶をすると、こちらをじっと見つめて無言のまま立ち上がる。
「冨岡さん、話していかないのかい?」
「確認出来たならそれでいい。蒼葉殿、遅くまで失礼した」
「えっ、帰っちゃうんですか」
「……もう休め」
義勇さんが穏やかな視線を向けてくれる。
思わず袖を掴んでしまった私の手を優しく包み込みながらもう片方の手で頭を撫でてくれた。
ただそれだけの事で、私の心は癒やされ幸せな気分に浸る。
柱である義勇さんは忙しい。
ずっと付き添っていたから分かっては居るし、勿論休んで欲しいという気持ちはあるのだけれどちょっとだけ寂しくなってしまったのだ。
記憶は未だに戻らないものの、変わらず私を包んでくれる義勇さんに甘えてばかりでは駄目なのだけれど。
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