「素晴らしい闘気だ…やはりお前は鬼になれ杏寿郎!俺と永遠に戦い続けよう!」

「っ、煉獄様!!」


激しい轟音共に吹き飛ばされた私は転がりながら土煙の中に煉獄様の姿を探す。
嫌な予感がずっとしている。
お願い、どうか無事でいて欲しい。

地面を強く掴み爪の中に砂利が入るのも厭わず左手に刀を構え煉獄様の元へ走る。

しかしやっと収まった土煙の中から現れた煉獄様の腹部には猗窩座の腕が貫通していた。


「…っ、あぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


それでも尚、猗窩座の頸へ刀を食い込ませる煉獄様の日輪刀へ自分の刀を合わせ力を込めた。


(斬れ…斬れ…斬るんだ!!)


徐々に日輪刀が猗窩座の頸へ食い込んでいく。
もう片方の腕が煉獄様の顔をふっ飛ばそうと拳を出したが、聞き手ではない手でそれを食い止める。
私にもっと力があれば、男性のように元々の力があればなんて何度考えた事か。

もうすぐ夜明けが近い。
仮に頸を斬れずとも猗窩座をこの場に留めておければ何とかなる。
猗窩座の髪の毛をもう片方の手で掴み体重を掛け煉獄様の日輪刀を更に食い込ませながら2人掛かりで抑え込む。


「逃さ、ないっ!!」

「退けえええ!!」

「あああああ!!!」

「伊之助動けーっ!煉獄さんと月陽さんのために動け!!」


猗窩座の頸の半分まで日輪刀が食い込んだ。
あと少し。
私達に加勢しようと伊之助がまだ斬れていない反対側の頸へ型を繰り出そうとしたその時、地響きと共に勢いのついた風圧が巻き起こる。

掴んでいた筈の毛髪は数本私の手に残り、抜け出した猗窩座によって日輪刀が折られた。

全力で猗窩座を抑えに掛かっていた私は体制を崩して地面に顔ごと突っ込む。
痛みより逃してしまった虚無感が私を包み、手についた毛髪を振り払った。


「待て猗窩座!!!」


もう日は昇る。
根本の部分しか残っていない日輪刀を握り締め立ち上がると、自ら両腕を千切った猗窩座がこちらに背中を向けて走り去っていく。

逃さない。
痛みも何もかも感じない程、こんなに頭にきたのは初めてだ。
あと少し、あと少しなんだ。

ボタボタと垂れる血を吐き出し駆け出そうとした私の裾を誰かが掴んだ。


「っ!」

「…いい、月陽。その刀では猗窩座の頸は斬れない。行っても死ぬだけだ」

「頸なんて斬れなくていい!もう少しで太陽が昇るから、そこまで押し留められれば…っ」

「頭のいい月陽なら分かるな」


猗窩座に向かって炭治郎が何か叫んでいるのに、煉獄様の優しく諭すような声に私の身体は完全に止まってしまった。

嫌だ。嫌だ。

滲む視界に唇を噛みながら煉獄様に近寄り身体を抱きしめる。


「お前なんかより、煉獄さんの方がずっと凄いんだ!強いんだ!月陽さんだって煉獄さんだって負けてない!」


縋るように煉獄様を抱き締めた私の耳に炭治郎の声が響いた。
初めて聞く震えた声に、私も煉獄様も炭治郎の方へ目をやる。


「誰も死なせなかった!戦い抜いた!守り抜いた!お前の負けだ!煉獄さん達の勝ちだ!」


涙を流し、まるで子供のように叫び声を上げる炭治郎についに私の瞳から雫が溢れる。
そばに立っている伊之助も、何も言わないけれど堪えるように身体を震わせていた。


「もうそんなに叫ぶんじゃない」


静かに優しく響く声が、炭治郎に向けられる。
煉獄様の顔を見れば眉を下げながら慈しむような笑顔を浮かべていた。


「腹の傷が開く。君も軽症じゃないんだ。竈門少年が死んでしまったら、俺の負けになってしまうぞ。こっちにおいで。最後に少し話をしよう」


煉獄様の優しい声が炭治郎を呼べば、腹を庇いながらこちらへ近寄って目の前に座す。
私は煉獄様の身体を支えながら、炭治郎に話を続ける姿を見つめる。

空には太陽が昇り、煉獄様の燃えるような髪を煌々と照らしていた。


「竈門少年、俺は君の妹を信じる。鬼殺隊の一員として認める」


そう言った煉獄様の言葉に私も炭治郎も顔を上げた。


「胸を張って生きろ。己の弱さや不甲斐なさにどれだけ打ちのめされようと、心を燃やせ。歯を食いしばって前を向け」


煉獄様がそう言った言葉を炭治郎だけでなく、私も伊之助も強く胸に刻む。
前に義勇さんも似たような事を言っていた気がする。


「俺がここで死ぬことは気にするな。柱ならば後輩の盾となるのは当然だ。柱ならば、誰であっても同じことをする。若い芽は摘ませない。そうだろう、月陽」

「…はい」

「竈門少年、猪頭少年、黄色い少年。そして月陽。もっともっと成長しろ。今度は君たちが鬼殺隊を支える柱となるのだ。俺は信じる。君たちを信じる」

「…必ず、この子達は柱として私が守ります」

「あぁ、頼んだぞ。友として、志を同じくする仲間として、君に託そう」

「……っ、」

「最後に一つ、頼みたい事があるんだ」


必死に涙を堪え煉獄様の言葉を聞き逃さないよう口元に耳を近付ける。


「名前で呼んでくれないか」

「…杏寿郎、さん」

「あぁ」

「貴方は私達の誇りです」


顔を抱き寄せ頭を優しく撫でる。
杏寿郎さんは嬉しそうに微笑んだあと、静かに息を引き取った。



Next.





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