「うーーーん」
今朝義勇さんに蒼葉さんの家まで送ってもらい、煉獄様と待ち合わせしていた列車に乗る為駅で待っていた私は駅員に追い掛けられている炭治郎に出会した。
何とか列車に乗り込み、と言うか飛び乗り目の前に迫る黄色と猪に唸っている。
「何だよ!何だよ!炭治郎ってばこんな美人さんとどこで知り合ってたの!?」
「おい、女ァ!お前強いのか!何で隊服着てねぇんだよ!」
「…す、すみません月陽さん。お前たち、月陽さんに失礼だろ!」
炭治郎と禰豆子が元気そうで良かったと言う安心感もあったけれど、煉獄様には目立たぬ様に列車に乗車して隠れていて欲しいとお願いされたのにこれでは目立って仕方がない。
「えと、私は月陽。訳あって今は鬼殺隊として仕事はしていないけれど、君達とやっている事は殆ど一緒だよ」
「月陽さん、素敵な名前ですね。俺は我妻善逸と言います。結婚して下さい」
「え?」
「おい紋逸やめとけ。こいつには番が居るぞ!男の匂いがプンップンしやがる!」
「はぁぁ?!」
「あ、あは…」
何というか炭治郎の同期って凄いな。
濃い。色々と濃い。
濃すぎて柱の方々と並んでも全然大丈夫な程に濃い。
私の手をそっと握りキラキラとした視線を向ける善逸に、猪君。
炭治郎が纏めているのか、恐るべし長男力。
「猪君は名前なんて言うの?」
「俺は嘴平伊之助だ!!山の王だ!」
「うん、そんな感じするわ」
「だろ!分かってんじゃねぇか!」
ビッシィ!とおかしなポーズで決めてきた伊之助にうん、と頷く。
何だか話している内に可愛らしい子達だと思うけれどそろそろ離れないといけない。
「月陽さん、俺達と居て大丈夫なんですか?」
「うん。煉獄様、記憶取り戻してるし私がここに居るのは秘密裏に呼ばれたからなの」
「えぇっ!?じゃあ目立っちゃったら駄目なやつですよね?」
「そうなるけど、仕方ないよね」
炭治郎が気を使ってくれたけれど、とりあえず別行動を取っていればそれでいいだろうと自己完結して私の手を取り駄々をこねる善逸に苦笑する。
「嫌だ!俺は月陽さんから離れない!!」
「善逸!お前はどうしてまたそういう恥ずかしい事が出来るんだ!」
「恥ずかしくなんかないもーん!」
「善逸、ごめんね。私も仕事があるし、また今度お話しようね」
「うっわ天使か…」
「天使?」
よく分からない言葉を呟いた善逸に首を傾げればそんな所も可愛いですと声高らかに叫んでくれた。
もうこれコッソリとか無理だな、うん。
そして随分と静かな山の王の伊之助が気になってふいに視線を向ければ列車から身を乗り出し風を感じている。
炭治郎、私から言えることはこれだけだ。
「頑張れ炭治郎!」
「ありがとうございます!」
「うん。それじゃ、早く列車の中に入って煉獄様と合流しておいで。私はちょっと調べる事があるから」
「あ!おい!どこに行く狐女!」
「月陽さんは月陽さんだ!」
そう騒ぐ炭治郎達に苦笑しながら列車の上に乗り辺りを見渡す。
特に異常は見られないけど、隊士が帰ってこないというのだから何かしらはあるのだろう。
「うーん」
狐面が飛ばされないように片手で抑えながら前へ進む。
下から騒がしい声が聞こえてくるけど、きっと炭治郎達だろう。
煉獄様のうまいうまいと言う声も聞こえてくる。
「楽しそうだなぁ」
「本当よネ」
「っ!?」
列車の前列へ進んでいると、後ろから気配も無く声が聞こえる。
間違いなく、陽縁の声だ。
「っ、陽縁!」
「アンタ、折角繋いだ命またこんな事に使ってるんだネ。本当におバカな子」
「…この列車の事件は陽縁のせいなの?」
「違うわヨ。あたしは何にもしてない」
振り向いて日輪刀を握れば少し身体の透けた陽縁が私に向かって微笑む。
気配はしないのに、目の前に居るのは間違いなく陽縁な筈。
逃したくないという気持ちが湧き起こるのを耐えるように刀を強く握りしめた。
「言っておくけど、アタシの事斬ったって意味無いヨ?だって本体じゃないし」
「…陽縁、お願い。話がしたいの」
「話?よく言うわ、しっかり刀握り締めた奴と話なんてできる訳ないでショ」
「もう周りを巻き込むのはやめて」
クスクスと笑った陽縁を強く睨みつけ、日輪刀の切っ先を向ける。
「私をどうしたいの?鬼殺隊の人達は何も悪くないでしょ」
「…悪いに決まってるじゃない。アタシを助けなかったんだから。嫌い、皆嫌い!!」
「っきゃ!」
ガン、と足を踏み鳴らすと車両の天井が柔らかくなり中へ落とされる。
穴が空いた天井から陽縁が顔を出し着地した私を見下ろす。
「頑張って私を見つけてネ」
「陽縁!」
天井が塞がり見えなくなってしまった陽縁へ叫ぶが、辺りの静けさに気付く。
人が落ちてきたと言うのに、反応は一切無く煉獄様や炭治郎達の声が聞こえない。
「…どうして、みんな寝てるの?」
「あれ?まだ起きてる人が居る」
「!」
「いい夢見てね」
鬼の気配がする。
そう思った瞬間、私の視界が暗転した。
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