「…義勇さん?」

「離したくない」

「いや、そろそろ帰った方が…」


茶屋で夕食を軽く済ませた私はそろそろ家に帰らないかと提案したのだけれど、義勇さんが何とも言えない無表情で身体を抱き締めて離してくれない。
嬉しいけどとても困った。


「いやだ」

「うーん、困りましたね」

「どうして伊黒の家には泊まるのに俺と泊まりは駄目なんだ」

「体調が悪い所を助けていただいたからそのままお世話になったんです」

「なら体調悪くなれ」

「え?」


無茶な要望に驚いてみせるけど、一向に離すつもりのない義勇さんの頭を優しく撫でる。
今日は結局蒼葉さんのお家で休む予定だったから別に構わないのだけれど、このまま一緒に居たら我慢が出来なさそう。義勇さんが。


「駄目か?」

「〜〜〜ずるい…」

「ずるくない、本心だ」


ちゅ、と首筋に吸い付く義勇さんに体を揺らしてしまう。
痕でもつけたのか、少しピリッとした痛みに乾いた笑いが込み上げる。


「今度はいつ鬼狩りに行く」

「明日ですかね」

「一人でか?」

「いいえ、元々隊士が派遣された場所へ行くだけです」

「怪我をするなよ」

「はい、気を付けます」


顔に掛かる髪を退けた義勇さんは額を合わせ私の腰を引き寄せる。
膝の上に乗った月陽は昔の様な距離感に心が満たされながら首に腕を回した。


「今度こそは守らせてくれ」

「ん?」

「?」


不意に出た言葉だったのか、自分でも不思議そうな顔をする義勇さんに心が暖かくなる。

心の何処かで私の記憶があるのかもしれない。


「私も、義勇さんの事…みんなの事守りたい。守らせて下さい」

「無理はしてくれるなよ」

「ん…分かりました」


二人で空を見上げながらそのまま布団に転がる。
義勇さんはやらないと言ったらきちんと約束を守ってくれる人だ。
相変わらず無表情が多いけれど、私が話すと相槌を打ってくれるし、柔らかい頬を突いて遊ぶとちょっとだけ擽ったそうに身を捩る。


「ふふ」

「………っ」


笑いを堪えてるのかプルプル震える義勇さんが可愛い。
早く元に戻りたい。

そうしたらもっともっと触れられるのにな、なんて思いながら部屋に置いてあった夜着を着る義勇さんの胸に擦り寄る。


「義勇さん」

「どうした」

「私明日からまた頑張れそう」

「…俺もだ」


顔を上げて義勇さんの顔を見れば頬を両手で包まれ目を細めてくれる。
こんな顔されたら雰囲気に流されてしまいそう。

義勇さんはどうなんだろうと思って首筋に腕を回せば腰を引かれる。


「……義勇さん?」

「………………生理現象だ」

「っ、あぁー…」


気まずそうに目をそらした義勇さんが尊すぎて目頭を押さえた。
答えてあげたいけれど待ってほしいと言った手前私からやっぱりと言うのも気が引ける。

陽縁の件が終わるまで。
それまで私も耐えなくてはならない。

苦しさなんてきっと義勇さんの比にはならないのだろうけれど。


「義勇さん…その、良ければ」

「大丈夫だ、待つ」

「でも」

「月陽が大丈夫だと言うまで待ってるから、安心しろ」


相変わらず腰を引いたままだけど、強く抱き締めてくれた義勇さんへ静かに頷いた。
明日の午後には煉獄様に頼まれた件がある。

それが終わり次第、少しずつかー君が集めてくれている鬼の情報を元に陽縁を探そうと思っているから蒼葉さんにも申し訳無いけれどまたちょっとだけ長旅になる予定。


「義勇さん」

「何だ」

「また暫く私は遠くに行きます。でも、ちゃんと帰ってきますから」

「……場所は言えないのか」

「私個人の判断では何とも」


首を横に振れば義勇さんは首筋へ顔を埋めて深く息を吐いた。


「終わったら手紙送りますね」

「待ってる」

「はい」


義勇さんの顔が近づいて来て、目を閉じ唇が触れ合う感触に身を委ねる。


「もう寝るといい」

「義勇さんも?」

「側に居る」


腕枕をしてくれた義勇さんにぴったりとくっついて目を閉じる。
こうして寝るのも2年ぶりだ。

安心する匂いに眠気を誘われて、意識を手放した。




Next.

ひたすら我慢の義勇さん笑





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