私達は再会を喜ぶ暇もなく、義勇さんとしのぶさんのご飯を作っている。


「月陽、大丈夫かい?」

「え、あ…はい」

「あんたは可愛いから大変だね」


鮭大根を作りながらぼんやりする私の肩をたたいた蒼葉さんは困った様に笑い掛けてくれる。
野菜の灰汁を取りながら爪楊枝で大根をの具合を確かめながら私は首を振った。

しのぶさんのうどんも出来たようで、お盆の上に乗せられた丼ぶりを置いて蒼葉さんが持っていく。


「…うん、出来たかな」


そろそろ味も染みただろうと、鍋から具材を取り出し器へ移動させご飯を準備する。
指を絡めた意味は何だったのだろうか。

何だか昨日今日と色々あり過ぎて疲れたな、なんて思いながら義勇さんの元へ歩く。


「お待たせしました」

「…あぁ、すまない」

「ごゆっくり」


義勇さんの前に置いて一礼しながら後ろに下がった。
調理場では蒼葉さんが夜の準備を始めていて、私は置いたままにされている調理器具を洗い小声でおしゃべりする。


「所で熱を出していたんだろう?もう平気なのかい?」

「はい、ご心配お掛けしてごめんなさい」

「いいよ。元気な顔で戻ってきてくれたなら」

「ありがとうございます」

「ただし、無理はもうしないでおくれ。今日の夜はちゃんと家に居るように」

「えぇっ!?」


優しく笑ってくれたと思いきや、すぐに怖い顔をした蒼葉さんに仕方なく私は頷くしかなかった。
せめて準備だけでもと思い、お手伝いをしているとしのぶさんの声が私を読んだのでお会計かと席へ向かう。


「ご馳走様でした」

「いえ、いつもお疲れ様です」

「こちらお代と…あと、持ち帰りでお団子をいただけますか?」


しのぶさんから渡されたお金をいただいて、頼まれたお団子を箱に詰める。
もしかしたら蝶屋敷に居る子ども達に渡すのかもしれないと思って、ちょっとだけ個数を追加しておいた。

増やした分のお団子代は私のお財布から出せばいい。


「お待たせしました」

「…多くないですか?」

「宜しければお持ち下さい」


しのぶさんが頼んだ分の箱と、何個か入れた小さい箱を渡せば目を丸くした大きな瞳と目が合う。
可愛い。二年前と比べて更に可愛さと美しさが増して女の私でも思わずキュンとしてしまうくらいに素敵な女性になった。


「ふふ、ありがとうございます。子ども達が多いので助かります」

「いえいえ、きっと可愛らしい子ばかりなんでしょうね」


前に義勇さんと蝶屋敷に行った時の事を思い出しながらしのぶさんに笑い返した。


「では冨岡さん。私は帰ります」

「あぁ」

「月陽さん、何か困ったことがあったら相談して下さいね」

「あ、ありがとうございます」

「いえいえ。同じ、仲間ですから」

「!」


立ち上がったしのぶさんは私の耳元で小さく囁くと、横を通り過ぎて行く。
驚いた顔で振り向けば、悪戯が成功した時の子供のように笑っている。


「また来ますね」

「っ、しのぶさ…」

「月陽」

「あ、はい!」


しのぶさんに手を伸ばそうとした瞬間、義勇さんに着物を掴まれる。
視線を外した瞬間すでにしのぶさんの気配は消えて、もしかしたらと思った考えを一時中断して私を見つめている義勇さんへ向き直った。

真面目な顔しているのはいいけれど義勇さんお口の周りにご飯粒くっついてる。


「話がある」

「何でしょうか」


口の周りを懐に入れていた手拭いで拭いてあげながら義勇さんに答えると、掴んでいた着物の裾をきゅっと握り締められた。
小芭内さんの事を聞かれるのかな、なんて思っていると辺りを見回した義勇さんはしのぶさん同様耳元に顔を寄せる。


「ここでは良くない。今日空いてる時間はあるか」

「えっと、これから手伝いが終わった後なら…」

「なら蒼葉殿の手伝いが終わるまで待ってもいいか」

「お仕事はお休みなんですか?」

「あぁ。今朝任務を終えたからな」

「分かりました。でしたらここで待ってて下さい」


仕事が無いのなら私も義勇さんと居たい。
小芭内さんにも誰にも言っていないけれど、少し気になる噂があったしまた暫くここから離れる事になるし。

蒼葉さんには怒られるのだろうな、なんて思うと少し気が重いけれど人の命には変えられない。

頷いた義勇さんにお茶のおかわりを持ち、後ろで下拵えをしている蒼葉さんの元へ行き許可を取る。


「蒼葉さん」

「冨岡さんならいいよ。行っておいで」

「ま、まだ何も…」

「お連れさんが帰ったのに残ってるって事はそういう事だろう?伊達に何十年も女やってないよ」


呆気なく許可を貰った私はニヤリ顔の蒼葉さんに笑い返しながらぼんやりと外を眺めている。
何を聞かれるのかは分からないけれど、意外と普通に接してくれる義勇さんに少し安心した。


Next.





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