「やっぱり無一郎は記憶を…」

「その様だな」

「それで、小芭内さんはどうして?」

「……話さなきゃならないのか、それを」


とても言いづらそうにしている小芭内さんに首を傾げる。
どうしてそんなに言いづらそうにするのだろうか、私には分からない。

出来たら教えてもらって共通点などを繋ぎ合わせていきたいとは思っているけれど。


「……狐の面をしたまま寝ただろう。俺が近寄っても起きないから、面を取ってお前が飯屋の月陽だと言う事を叩き付けてやろうと思ったんだ」

「女性の寝込みを襲ったんですね…!」

「よし。そこまで言うのなら襲ってやろう。安心しろ、痛くはしない」

「ごめんなさい!」


何だか小芭内さんとこういうやり取りをしたのが嬉しくてつい調子に乗ってしまった。
危ない、前に小芭内さんのお家へ突撃訪問した時の二の舞いになってしまうところだった。

私に覆い被さった小芭内さんは謝罪の言葉を聞くと、ジト目で睨んだ後身体を退かしてくれる。


「…狐面を剥がしてやった後、お前の顔を見たら泣いていたんだ」

「……え」

「熱で涙が出ていたのかは知らんし、聞くつもりはない。だが、お前の涙など俺は初めて見た」


そっと私の頬を撫でた小芭内さんはもの悲しげな瞳で自分の指を滑らせた場所を見つめる。


「その時だ、思い出したのは。基本アホ面で、笑っているかと思いきや人の為ならば必死に食らいついてくる馬鹿な毒見役をな」

「えぇ、そんなに言います?」

「そんな馬鹿を好ましく思っている俺はもっと馬鹿なのかもしれんが」

「…小芭内さ、ん"っ!」


穏やかに私の頬を触れていたはずの小芭内さんが突然人差し指と親指で耳を引っ張られ痛みで変な声が出てしまった。
痛い。熱である程度ぼんやりとした感触になっているはずなのに凄く痛い。

好ましくって、人として好きだと思ってくれているのかなと思えばそんな痛みも何だか許せてしまうけれど。


「お前だと分かれば狐面を付け隊士を助けていたのも頷ける。まあ己を顧みず行動した結果がこれでは下の者にも示しがつかないがな?月柱」

「う…」

「しかしだ。アホ面を見せてくれたその事だけは褒めてやろう」

「それ褒められてます?」

「何だ不服か?」


いつもよりネチネチ度の増した小芭内さんへ苦笑を浮かべればちょっとだけ得意げに微笑んで首を傾げられた。
ぐぬぬ、顔がいいな。


「まぁ俺が思い出したのはそういう事だ」

「なる程。それで私を小芭内さんのお家まで運んでくれたんですね」

「あぁ、すごく重かった。お前太ったのではないか?」

「嘘…でしょ…」

「ふ、冗談だ。寧ろ軽すぎる。あの飯屋は美味いのだろう、どうして痩せる。痩せるということは筋肉も落ちているということだぞ」


病人は休めといったくせにネチり始める小芭内さんに少しずつ少しずつ笑いがこみ上げてきて、掛け布団に顔のした半分を隠しながら吹き出した。

なんて懐かしいんだろう。
こうして小芭内さんに怒られるのも、何だか嬉しく感じてしまって笑いがこみ上げてしまう。


「おい、聞いているのか」

「ふふ、すみません。またこうして小芭内さんに怒られてるのが何だか嬉しくて」

「……変態だな、変態。お前は変態に認定してやろう」

「えぇ!?っ、ごほっ」


変態という言葉に驚いた私が講義の声を上げようとしたら咳が出て上手く言えなかった。
全く、と言いながら布団の上から私の胸を撫でてくれる。

布団越しだからいいけれど、小芭内さん。
そこ私の胸です。


「……あ、ありがとうございます」

「おい、何を照れている。俺はただ咳をしたから胸を撫でてやった………」


あ、言っちゃった。
そう思った瞬間私の胸を撫でていた小芭内さんが手を上げ青ざめた顔でこちらを見ている。

いえ、別に気にしてはないんですけどね。
下心あった訳でもなさそうだし。


「あの、小芭内さん。私気にしてませんから…」

「か…」

「か?」

「厠に行ってくる!!」


顔を真っ赤にした小芭内さんはそう言い残すと一瞬で姿を消してしまった。
部屋に残った私と鏑丸君が顔を見合わせ小芭内さんが消えた方向をもう一度見る。


「え、可愛い」

「!?」


私の発言に驚いた顔を見せた鏑丸くんの顎を撫でてまた笑ってしまった。
やっぱり小芭内さんの隣は居心地がいい。

厠から帰ってくる小芭内さんを待ちながら少し眠ろうと、途端に重たくなった瞼を閉じて私は眠気に身を任せた。



Next.





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