「…っ、は」


肩で息をしながら目を開ければ木目の天井が映った。
頭痛と身体のダルさに耐えながら必死の思いで起き上がると、白い何かが目の前に落ちる。 

丁寧に被せられた布団から白い布を取ると、それは冷たく湿っていた。


「…私」

「起きたか」

「!」


湿ったそれを握り締め、隣に置かれた面へ視線を向けながら自分の状況を把握しようとした瞬間開かれた襖から小芭内さんが姿を見せた。


「え、あ…」

「お前は嘘を付くのが下手くそだな。月陽」

「小芭内さん」

「やっと見つけたぞ」


私の横に腰を下ろした小芭内さんは眉を寄せながら額を小突いた。
バレてしまった。
きっとこのままでは鬼殺隊に連れて行かれてしまう。

夢に陽縁が出てきたから、もしかしたら記憶が戻ってる人が居る事に気付いてしまっている可能性もある。

冷や汗が止まらなくなって、視線を彷徨わせていれば目の前から深いため息が聞こえた。


「…そう怯えるな。事情は知らんが今俺の屋敷には誰も居ない」

「そうじゃなく、て」

「記憶が無くなっていた事も出来る時にしてくれればそれでいい。とりあえず今は薬を飲め」

「小芭内さん、記憶あるんですか…?」


咳込みながらそう言えば小芭内さんは薬を用意しながら私をチラと見て頷く。
煉獄様の時もそうだったけれど、何の拍子で記憶を取り戻しているのか全く分からない。

触れて戻るものなら義勇さんだって記憶を取り戻しているはず。


「けほっ…」

「苦いが前に胡蝶に貰ったものだ。飲め」

「すみません」


私の背に腕を回してくれた小芭内さんが白湯と薬を渡してくれたので、一気に口へ流し込む。
風邪薬を貰って義勇さんが渋い顔をしていたのがなんだか頷ける気がした。

ごくりと喉を鳴らして薬を飲んだ事を確認した小芭内さんは私から湯呑みを受け取り端へ避けると額に触れて熱を確認する。


「まだ熱がある。横になれ」

「で、でも」

「言う事を聞けないというのならお館様の前に連れていくしかないな」

「寝ます!寝させていただきます!」


わざとらしくため息をついた小芭内さんに片手を上げて返事をして素早く布団へ横になる。
傍らに居た鏑丸君が舌をチロチロと出しながら私の頬へ擦り寄ってくれた。


「ふむ。言うことを聞けるではないか」

「喜んで!」

「…変わらぬようで何よりだ」


少しカサついた声で返事をすれば、傍らに座った小芭内さんが冷したタオルを額に乗せてくれる。

ひんやりしてて凄く気持ちがいい。


「小芭内さん」

「ここに居る」

「どうして、記憶を取り戻したんですか?」

「……」


薄めを開けて小芭内さんを見ると無言で目を逸らされる。
え、なんで。

そのまま小芭内さんを見つめていたら羽織で顔を隠しながらポツリポツリと話し始めてくれた。


「仕事の帰りに…」



―――――


「…………」

「………………」

「……おい。何故泣いている」


たまたま甘露寺に土産でも買って帰ろうと思って町へ寄ったら旅館の前で膝を抱えた時透が目を赤くして座っていた。

拗ねているのか何だか知らんが唇を尖らせ俺を軽く睨んでいたのでわざわざ声を掛けてやったんだ。


「……月陽」

「月陽?あの飯屋の娘か」

「月陽が」


歯切れの悪い時透に若干イライラしたが寛大な俺は話し切るのを待ってやる事にした。
もしかしたら狐面に関する情報だと思ったからだ。


「僕を無視した」

「は?」

「月陽は、俺の事が嫌いになったのかな。記憶が無くなったから、だから月陽は…」


その話を聞いたとき、なんてくだらない理由で泣いたんだと思ったんだがな。
確か時透はお前の働く飯屋に行ったことが無いと言っていた。


「伊黒さんだって月陽のこと可愛がってたくせに忘れちゃうから嫌われてるよ、きっと」

「俺があいつを?忘れるとは何なんだ」

「絶対誰より先に月陽を見つけ出して、今度は僕が幸せにする」

「おい、時透!」


いつもぼんやりしたあいつの瞳が悲しみを表したのは初めて見た。
記憶が無いとはどういう事か、俺なりに考えてみたのだがその時点でお前の記憶は戻ってはいなかった。


その後考え事をしながら鏑丸に散歩でもさせてやろうかと入った森で月陽、お前を見つけたんだ。







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