「い、イタイ…イ"ダイよ…」
「……」
頸が飛んだ後も貼り付けられた笑みのまま不安そうな声を上げる子どもの鬼へ近寄り、そっと頭を撫でてあげる。
罪なき人を食った事実は変えることは出来ないけれど、きっとこの子はこの子なりに何かを必死で追い求めた結果間違った方向へ行ってしまったのかもしれない。
もしあの映像がこの子のものだとしたら、それを正してくれる大人すら周りに居なかったのだろう。
「罪を償っておいで。そうしたらきっと、今度こそ愛してくれる家族に出会えるから」
「ほん、と…?」
「うん。ほんと」
「…ボ、ク…ほんと、は」
頭をよしよし、ってされたかっただけなんだ。
消えていった鬼からそんな声が聞こえたような気がした。
無一郎を無視したまま鬼の最期を看取った私は何も言わずその場から立ち上がる。
ごめんね、無一郎。
私が居ると言ったのに消えてしまったから。
「…ごめんね」
「なんで?」
「無一郎は悪くないよ」
「っ、何がだよ!」
いつもぼんやりした顔の無一郎が、ただ謝るだけの私に怒りを飛ばす。
早く、どうかこの子がまた笑える日が来ますように。
信頼できる仲間や、友達が出来ますように。
私を追ってくる無一郎に面の奥で目を閉じながら祈る。
あぁ、きっと炭治郎や禰豆子なら無一郎といいお友達になってくれるかもしれないな。
そんな事を思いながら振り切るために近くにあった大木を刀で斬りつける。
「待って!」
「無一郎、無責任なお姉ちゃんでごめんね」
「っ、飴のお姉さんだろ…!狐のお姉さんじゃなくて、飴の!」
倒れてくる大木を斬ろうと刀を抜いた無一郎に何を言う事もなく、全速力でその場から逃げ出す。
飴のお姉さんとは、どっちの私だろうか。
初めて無一郎と会った時の私?
それとも、さっき旅館で会った時の私?
「行かないで…行かないでよ!」
「…っ」
「ねぇ!月陽!!」
今にも泣き出しそうな無一郎に名前を呼ばれた気がしたけれど、私は足を止めなかった。
もしかしたらその名は私であって、私では無いかもしれない。
子どものように泣き声を上げ、待って待ってと叫ぶ無一郎に胸を割かれるような痛みに耐えながら追い付かれない程の距離を全速力で走った。
もう、蒼葉さんの所には居られないかもしれない。
どれくらい走っただろうか、息を荒くした私は木にもたれ掛かりながら明るくなり始めた空を見上げる。
あの場所で余りに鬼殺隊の人達と絡みすぎてしまった。
私の正体がバレるのも時間の問題かもしれない。
待ってくれている蒼葉さんの顔を浮かべ申し訳ない気持ちになりながら、帰るつもりで居た町とは逆方向の道へ歩き出す。
「かー君。旅館から必要最低限の物を持ってきてもらえる?」
「イイノカ」
「うん。お金は多めに置いてあるから、きっと大丈夫」
あそこを離れてしまえば、きっと私が狐面の鬼狩りだと知られてしまうだろう。
義勇さんにも、もう会えない。
「…大丈夫、陽縁と早く決着を付ければ良いだけだもん」
そんな独り言を言いながら、休憩出来そうな開けた場所へ腰を下ろした。
また一人に戻ってしまった。
静かな空間が寂しさを加速させる。
「会いに来てね、なんて言ったのは私なのに。義勇さん、どう思うんだろう」
先日義勇さんと約束してからそう何日も経っていないのに。
こんなに早く約束を破ってしまうなんて、そう思いながら膝に顔を埋める。
きっと大丈夫、無一郎にも会えたし。
もしかしたら鬼殺の時に顔を合わせる可能性だってある。
まぁ余り良くないけれど。
「大丈夫、大丈夫。そんな事より蒼葉さんに手紙書かなくちゃ」
次の町についたら蒼葉さんへ手紙を書こう。
きっと怒るんだろうなぁ、なんて蒼葉さんの顔を浮かべたら乾いた笑い声が溢れた。
蒼葉さん、怒ると凄く怖いんだよね。
「ごめんなさい、蒼葉さん。義勇さん」
煉獄様にも連絡をしなくてはならない。
やる事はたくさんあるし、後ろ向きになってる場合じゃないと、少しの休息を取るために木の根本で小さく蹲った。
愈史郎君の着物、かー君持ってこれるのかな。
うとうとし始めた私はゆっくり瞼を閉じて意識を手放した。
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