結局同じ様な袴では駄目だと悟った私は予備に持ってきていた着物を着て夜の町へ繰り出した。

動きにくい事この上ないけれど、無一郎にバレてしまうのは非常にまずい。

はしたないかも知れないが、もし鬼と遭遇したら隊服のように短くしてしまえば戦えない事もないと開き直りながら人通りの少なくなった道を歩く。


「今日で見つかればいいけど」


昨日は面を外して鬼を探していたけれど、無一郎がこの町にいると分かった以上面を被らねば着替えた意味がない。

それ故に往来のある道を歩けないという手間を負うことになった。

人の目に触れないよう、変な動きをする者が居ないか歩く人々をみるけれど、気配も無ければ不審な者も居ない。
きっと頭のいい鬼なんだろう。

だけど人が消えたと聞いたのはちょうど3日前の出来事だから、どの様な配分で食べているかは分からないけれどそろそろ動き出してもいい頃なはず。


「ちょっと場所を変えよう、か…な」


ふと鬼の気配がして振り向くけれどそこに何も居ない。
なのに気配だけがする。

もしここで戦う事になっては困るし、私に気が付いて仕留めようとしてくれているのならこの場所から遠ざかっておきたい。

余りに目立ち過ぎる上に鬼殺隊という後ろ盾がない以上隠にお願いして人を避難させてもらう事は出来ない状況なのだ。


「かもめかもめ 籠の中の鳥は いついつ出逢う 後ろの正面 だぁれ」

「っ!」


さっさとこの場から離れようとしていた私の背後から不気味な声と共に強い気配が現れ飛び退いた。
辺りを囲むように同じ顔の小さな子供が手を繋いで私を見ている。

子供であろうと鬼である以上斬らないわけにはいかない。
仕方ないけれどここで仕留めると決めて刀に手をやると、私を囲んでいたはずの子供達は姿を消していた。


「お姉ちゃん、遊ぼうよ」

「…貴方が姿を現してくれないなら遊びようがないよ」

「見つけて、本物のボクを」


8人ほどの鬼が私に向かって一斉に攻撃してくる。
ここじゃどう考えても不利だ。
人通りから少ししか離れて居ないし、巻き込む可能性がある以上今すぐこの場から遠ざかるのが1番に考えなきゃいけない。

さっそく着物が邪魔になった私は禰豆子がしてるように合わせ目を開き障害物を乗り越えながら鬼と付かず離れずの距離を取る。

思考も子供なのだろうか、楽しそうな笑い声を上げて私を追ってきてくれるのが有り難い。


「これじゃあ見つけるというより鬼ごっこだよね!」

「アハハハハ!!待ってよー!狐さんてば!」

「無邪気さが怖い!!」


私に両手を伸ばして真空波のようなものを放つ鬼の攻撃を避けながら、人通りの少ない街道へ移動する事は出来た。

そろそろ鬼ごっこは終わりにしようと身体を翻し、意外と近くにいた鬼の背後へ飛び移る。


「鬼ごっこはそろそろ終わりだよ」

「えぇ、残念!ボクまだ狐さんと遊びたいよ」

「月の呼吸 伍ノ型 皐月!」


刀を鞘に収め、姿勢を低くして足に力を込めると向かってきた鬼の身体を切り上げる。
分身なのだろう、頸を斬っていないのに鬼の身体は消えていく。

その程度は予想の範囲内で、続けて技を出す準備をする。


「捌ノ型 葉月」


乱れ斬りを放ち辺りに増えている分身を片っ端から斬って数を減らしていく。
それなのに周りからは子供の無邪気な笑い声が絶えず響き背筋がゾッとした。


「余り、大人を、揶揄っちゃ…駄目だよ!」

「キャハハっ!」


大きく笑い声を上げた鬼に向かって刀を振り下ろす。
血飛沫が私の顔に飛び散るほど深く斬ったと言うのに、本体だと言うのにどうしてこの子は笑っているのだろう。

まるで、昔の私みたいだ。


――お母さん!お母さん!やめてよ!


「っ!?」


深手を負った鬼の声が直接私の耳に届いて驚きながら飛び退く。
今のは何だったの、そう思って鬼へと目をやってもひたすら笑い声を上げ続けている。

もう一度踏み込めば頸は斬れるのに、どうしてか私はそれが出来ないでいた。


――痛い。痛いよ!


血を被ったせいなのか、子どもの鬼の記憶の様なものが私の中に流れ込んでくる。


『どうしてあんたはいつも泣いてばかりいるの!』

『男のくせに泣き虫!』

『弱い奴など俺の子ではない!』


髷を携えた父親らしき男と頻繁に子どもの頬や身体を殴る女、傍らで嘲る少女が中央で蹲る男の子を一方的に攻撃している。


「アハハ!アハハハ!!ボクは強いんだ!」

「…君」

「痛くない!負けない!ハハッ…」


被った血が目に入ると、目の前の鬼が半分人の頃の形をしているように見える。
鬼の方では笑っているのに、人に見える半分は泣いている。

私が聞いたのは、きっとこの子の人であった時の声なのだと思った瞬間、人影が見えた。


「待っ…」 

「キャハっ、ギャッ」

「…何してるの、狐のお姉さん。この程度の鬼、簡単に斬れるでしょ」


泣き、笑い続ける鬼の頸が飛び、背後からその子を斬った人影を遮るものが無くなる。
誰かが来ているのは分かっていたけれど、こんなに早くつくなんて。

思った以上に成長が早い。
本当はとても良い事なのだけれど。


「鬼に同情なんてするもんじゃないでしょ」

「……」

「最近変な奴ばっかり。鬼を連れて鬼殺隊に入る奴とか、狐の面を被って鬼に同情する奴とかさ…無駄な事する奴ばっかり」


刀についた血を振り払い、月夜に照らされた無一郎は冷たい目を私に向けていた。





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