あの後更に忙しくなった店内にそろそろ帰ろうとした俺に気づいた月陽が紙の切れ端を寄こした。


「この場で話すのは、ちょっと恥ずかしいので…今週の私の予定です。冨岡さんが大丈夫な日、後で教えて下さい」


そう言って押し付けるように渡した月陽は忙しい店内へとまた戻って行ってしまった。

ふと手元にある紙に目を落とすと、彼女の仕事がない日が書かれている。


律儀に冨岡義勇様、と可愛らしい字が俺の名前を綴っていて僅かばかり頬が緩むのを感じた。


「お、冨岡じゃねぇか」

「…宇髄」

「あからさまに嫌そうな顔すんじゃねぇよ、派手にテメェは失礼だな」

「何か用か」

「いいや、たまたま任務帰りに見掛けたから声掛けただけだ」

「そうか」


相変わらず派手な格好に化粧をしている宇髄に会った。
今持っているものをこいつに見られると面倒な事になりそうだと判断した俺は懐へ大切にしまうと、こちらを見ている宇髄を無視して自分の家へ帰る道を歩く。


「…ふーん。お前、そんな顔も出来るんじゃねぇか」


何か聞こえた気がしたが、あえて無視を決め込んだ。
家につき、もう一度月陽から貰った紙を取り出し机の上に置いて自分の予定を確認する。

休みというものはあるが、緊急があれば出なくてはならない。
しかし狐面が現れてから柱がいない鬼狩りへ赴いた隊士達の生存率が僅かだが上がった。

それによって俺達が出なくてはならなくなるような件が減り、お館様も狐面に感謝している。
見つけ次第連れてきてほしいとのお達しも受けていた。

ふと掛けてある羽織に目をやれば背丈は月陽と同じくらいだったような気がしなくもない。


「…まさか、な」


もし月陽が狐面だったのならどうして鬼殺隊にわざわざ関わる所で普通の職についているのだ。
顔を隠し、俺達柱の前に姿を現さないようにしているのなら尚更の事。

柔らかな明るい笑顔に俺達の様な死と隣り合わせの仕事は似合わない。

俺の名を呼び嬉しそうな顔をする月陽が頭から離れず、ため息をついて床につこうと隅に避けてあった布団を敷いた。


そう言えば伊黒が月陽を気に掛けている素振りを見せていたなと寝間着に着替えながらまだ明るい空を見上げる。

月陽を狐面だと疑っているのかもしれない。

伊黒な疑り深い所があるし、俺がどうこう言っても逆に月陽が更に疑われる可能性がある。
ならば俺が月陽の疑いを晴らすために狐面の招待を掴めばいい。

一つの明確な目標が立った俺は一人頷いて布団の中へ潜り込んだ。

こんな俺が誰かを好きになるなどきっと月陽には迷惑かもしれない。
それでも彼女は逢引に答えてくれたし、気のせいでなければとても嬉しそうにしてくれていた。

誰にも渡したくないと、あの柔らかな肌に触れたいと思うのに今の俺に誰かと付き合う資格など無い。


―――私があなたを肯定します!


眠りかけた俺の脳内にそんな声が響いた。

誰かが俺にそんな事を言ってくれたような気がする。
それが誰なのか霞がかったように分からない。

お前は誰なんだ。
何度問いかけてきただろうか。

そんなことを考えながら眠りについた。





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