義勇さんのお団子と、自分用のお茶を持ってお隣に失礼させてもらう。
こんなに近くに居る義勇さんに心臓が煩くて、前は当たり前だったこの距離感に緊張してしまった。

ドキドキし過ぎて義勇さんに聞こえてないか心配になってしまって横目で確認しようとすると、先に私を見ていたらしい穏やかな瞳と目が合って顔に熱が集まってしまう。

かっこいい、どうしよう。
前々から顔が良いとは思っていたけれど、こんなに胸が高鳴ることなんてなかったのに。


「…どうした」

「い、いえっ!冨岡さんのお顔が良くてつい…」

「?」


何を言ってしまったんだと思った所で後の祭り。
最近義勇さんに名前で呼ばれるようになってからつい前のように接してしまいそうになる。
と言うかなってしまった。


「………」

「あぁぁごめんなさい。カッコイイとずっと思っていたからつい心の声が…引か、ないで…」

「…こっち、見るな」

「〜〜〜〜っ」


顔を赤く染めた義勇さんの顔を見てしまって、私まで照れてしまい思わず足元に視線を移してしまう。
やめてくれ、本当にやめてくれ。
そんな反応されたら前みたいに口づけしてしまいそうになってしまう。

いつから私はそんなはしたない女になったんだと心の中で自分を叱咤しながら強く目を閉じた。


「…月陽」

「ひゃい!?」

「……その、お前が休みの時でいい。日中何処か行かないか」

「え?」


突然過ぎるお誘いに、さっき小芭内さんにも誘われたなと思いながらも驚いて聞き返してしまうとまだ頬を染めたままの義勇さんは反対側を向いてしまった。


「嫌ならいい」

「ち、ちがっ…これは驚いてしまっただけで」

「だけで?」

「う…嬉しい、です」


義勇さんに不用意に近付いてはいけないと散々頭の中で自分に言い聞かせているのに、こんな風に誘われてしまっては断れる訳がない。
だって私は今も変わらず義勇さんが大好きなんだから。

勇気を振り絞って義勇さんの袖を掴むと、私の行動に勢い良く振り返ってくれた。
そして緩く瞳を細め、私を見つめながら柔く微笑んでくれる。


「…楽しみにしている」

「は、はい」


袖を掴んだ手を義勇さんの指が絡め取りそっと繋がれる。
これ以上の事だってした事があるはずなのに物凄い勢いで照れてしまって空いてる片方の手で顔を覆ってしまった。

なんだ、何だこれ。
前にお付き合いした時以上に照れてしまう。

私達の関係はお客さんと店員という立ち位置なのにまるで初恋のような恥ずかしさと喜びで頭が飛びそうだ。


「そんな反応をされると困る」

「ひぇっ、ごめんなさい」

「意中の相手以外にそんな顔、見せるな」


勘違いしそうになる、と指を絡めたのは義勇さんの癖に私の頬に触れて困った様に眉を下げる。
はぁ、尊い。私よくこんな人とお付き合いできていたな。


「冨岡さん以外にこんな顔、出来ません」

「…、月陽」

「すいません、店員さん!お会計お願いします!」


思わず本音が漏れてしまった私に義勇さんが何か言おうとしたけれど、さっきうどんを持っていった鬼殺隊の方に遮られ大袈裟に椅子を引いて立ってしまった。
これ以上は恥ずかしさで死にそうだし、義勇さんが何を言い掛けたのか気になるけれど仕事をしなくては。

自分を誤魔化すように大きな声で返事をしてそっちへ向かおうとすると、一瞬手を引かれ義勇さんへ振り返る。


「お代は置いておく。また来た時にでも大丈夫な日を教えてくれ」

「は、はい!」

「馳走になった」


義勇さんはそれだけ言うと机の上にお金を置いて店を後にした。
その後、きちんとうどんのお代を頂いてお見送りしながら義勇さんと触れ合った指先を見つめる。

微かに残る義勇さんの温度にきゅん、と胸が高鳴った。
あの人の天然たらしは今に始まったことでは無いけれど、気にならない人にこうして触れる事はしない人だと言う事も知ってる。

あぁ、やっぱり私は義勇さんが 


「…好き」


義勇さんに触れた指へ唇を寄せ、小さく小さく呟いた。

早く陽縁との事を解決しなくちゃ。
私は義勇さんの側に居たい。

自分の気持ちに歯止めをかけられなくなる前に、どうにかしなくちゃ。
そう思って。




Next.





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