途中の湯屋で身体を清め仮眠を取った私は昼前に蒼葉さんのお店へ向かった。

作る事はまだ素人だけれど、一緒にお客を対応する事くらいは出来る。
まだ全速力で帰ってきた疲れは完全に取れてはいないけれど、一人でいつも頑張っている蒼葉さんのお手伝いは出来る限りしたいと思っているから少しの時間頑張ろうと顔を叩いた。

髪の毛をまとめながら店の何処かにいる蒼葉さんに挨拶をして、手を洗うと既にお客さんが来ているようで慌ただしく動いている。


「蒼葉さん、代わりますから後ろへ行ってください」

「月陽!助かったよ」

「いいえ。今日も鬼殺隊の方が来てるんですね」

「あぁ。料理はしておくから団子の販売を頼んだよ」

「分かりました」


蒼葉さんに返事をしながら団子の注文を受け、お皿に乗せたり持ち帰りの物を箱に詰めたりと忙しなく動いていた。

その時、耳を疑うような量の注文を受けて思わず目の前を見ると縞模様の羽織を着た鬼殺隊の人の足元が見え、段々と視線を上げれば昨夜会ったばかりの顔が私を見下ろしている。


「…あ、鬼殺隊の」

「よもぎ20、みたらし20、きなこ25を頼む」

「かしこまりました」


小芭内さんは私を見つめながら蜜璃さんにあげるのだろう、通常では注文を受けることもない個数を注文されていく。
足りるかな、なんて思いながら比較的店でも可愛らしい箱に詰めていると目の前に立ったままの小芭内さんに話し掛けた。


「今箱にお詰めしますのでお掛けになってお待ち下さい」

「…分かった」

「?」


何だかさっきとは違い覇気が無さそうな返事をした小芭内さんは近くの椅子に腰掛けて大人しく待ってくれている。
何かしら言われるだろうと思ったけれどそうでは無さそうな雰囲気に安堵のほうが勝ち、ギリギリ間に合った団子を詰めた。

椅子で待っていた小芭内さんへ箱を渡しに行くとお代を渡され金庫へしまうと、そこから動かない為にもう一度側へ近寄る。


「お食事されて行きますか?」

「今日は何時に仕事を終える」

「…え?」

「少し話せないか」

「………えぇと」


気落ちした様子の小芭内さんが気にならないと言えば嘘になるけれど、私の正体について問われるのは少し面倒だ。
どうしようかと悩んでいたら、座っていた小芭内さんが立ち上がってしまう。


「忙しいのなら後でいい」

「え、あ!」

「また出直す」

「ちょっ…」


私の返事も聞かずに店をスタスタ出て行ってしまった小芭内さんに手を伸ばすも、引き止める言葉が出て来ずそのままゆっくり腕を下ろした。
何だったのだろうか。

また出直すと言うのならいいかと、調理場から蒼葉さんの声が聞こえて思考を止めて手伝いに精を出す。

重い器の乗った盆を運ぶのは鍛錬にもなるから有り難いけれど、体幹を整えるのがとても難しい。


「ちょっと頑張り過ぎた…」


4名分の食事を両手で持つと思いの外重く、そろりそろりと歩いて厨房から一番遠い席へと向かう。
うどんだから汁を溢さないようにしなくてはと思うと緊張して足取りも重くなる。

すると目の前に人影が現れて思わずびっくりして足を止めた。


「持ち過ぎだ」

「ぎっ…と、冨岡さん」

「少し持つ」


驚いて思わず名前で呼んでしまいそうになるも、ぎりぎりの所で名字を呼べば首を傾げながら2つ分のうどんが乗った盆を持ってくれた。

軽くなった両手で一つの盆をしっかり持つと、目の前で待っていてくれる義勇さんにお礼を言う。


「ありがとうございます!」


そう言えば無言で頷いてくれた義勇さんに、まず二人分のうどんを届けもう一つの盆を受け取って全てのうどんを渡し終える。


「すみません、助かりました」

「いい」

「お席、いつもの所どうぞ」


義勇さんがいつも座る席に案内すると、小芭内さんが座っていた辺りに可愛らしい蛇柄のハンカチを見つけた。
もしかして小芭内さんの物だろうかと拾い上げると、少しばかり可愛らしい装飾に蜜璃さんからの贈り物な気がして思わず頬が緩む。

義勇さんに渡しても喧嘩するだけだろうし、出直すと言っていたからまた小芭内さんが来てくれると思いながら懐にしまった。
床に落ちてしまったなら汚れてしまっただろうし後で洗おうと思いながら。

一度厨房へ行き、お茶を汲んで義勇さんの元へ行こうとしたら蒼葉さんに声を掛けられた。


「月陽、ちょうど手も空いたし冨岡さんと休憩しておいで」

「え、でも」

「鮭大根だったら作ってあげてから休憩すればいいさ」

「…ありがとうございます」


蒼葉さんの気遣いに微笑むと嬉しそうな笑顔を浮かべてくれた。
お茶を持って義勇さんのお席に向かうと、何処か落ち着かなさそうな背中に内心どうしたんだろうと思いながら声を掛ける。


「冨岡さん、ご注文はどうされますか?」

「…今日は、団子だけでいい」

「え、そうなんですか」

「あぁ」

「あの、私これから休憩なんですが良ければご一緒させて貰ってもいいですか?」


ちょっとだけ緊張しながらそう言えば、冨岡さんは一瞬動きを止めたけれど、その後すぐに黙って首を縦に振ってくれた。
一緒におやつなんて久し振りで嬉しいな、なんて自然と頬が緩んだ。





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