※冨岡視点
最近、団子屋に良く寄るようになった。
ここで出る鮭大根の味が一番口に合う。
だがいつの間にこんなに味を変えたのか。
「あぁ、いらっしゃい!また来てくれたんだね」
蒼葉殿に頭を下げていつも通りの席に座り、最近また狐面が出たと言う情報が載った紙に目を通す。
生贄を鬼に捧げてたという町へ数人の隊士を送った後、町民に暴行を受けた者を救い一人で鬼殺に向かったという内容。
余りに遅くなった為、近くで任務のあった煉獄が向かったが到着した時には既に鬼は討たれた後だったと言っていた。
「こんにちは、冨岡さん。お茶どうぞ」
「…あぁ」
「いつものでいいですか?」
「頼む」
そう言えば最近入った筈の月陽にも慣れた。
いつも笑顔で言葉が少ない俺にも優しく接してくれたお陰か、まるで昔から共に居るかのように心地がいい。
最初こそぎこちなかったものの、慣れてくれたのか俺の対応にも回ってくれるようになった。
「そうだ、冨岡さん。私この前草団子に挑戦したんです!まだ出せる程味が落ち着いてなくて、食べてもらえませんか?」
「…いいのか」
「ふふ、周りの人には秘密ですよ」
俺だけがそんな風にしてもらってもいいのか、と言う意味もまるで最初から分かっていたかのように会話の内容がしっかりと繋がっているのにも好印象だった。
月陽という名前も教えてもらったのはつい最近。
名前を聞けば嬉しそうに笑って答えてくれたのを憶えている。
彼女が笑うと、二年前から穴が空いたような感覚を持っていた心が温まった。
「じゃあ少し待っていて下さいね」
「分かった」
俺の持っていた報告書を見て気を使ったのか、一礼した月陽は後ろへ下がった。
彼女は人気がある。
そんな中俺一人が試作とは言え彼女の手作りを食べていいものかと考えるが、嬉しいと言うのもあった。
「あら、冨岡さんだわ」
「……甘露寺に伊黒か」
「ちっ、何故貴様がここに居るのだ。甘露寺、良ければ違う店に…」
「お隣いいかしら、冨岡さん。折角だもの皆でご飯食べましょう」
考え事をしていたら背後から聞き覚えのある声がした。
振り向いてみれば甘露寺と、側にはいつも通り伊黒が寄り添うように立っている。
相変わらず仲がいいと甘露寺の話をぼんやり聞いていれば俺の返事の有無に関わらず同じ席へと腰を下ろした。
「か、甘露寺…」
「ここに来るのとても楽しみだったの!煉獄さんがよく美味しいと言ってたから。だから伊黒さんが連れてきてくれたのとっても嬉しいわ」
「そうか、それならばいい。おい冨岡、一切こちらに話を振るなよ」
「……」
俺が座る席に邪魔をして来たのはそちらだが別段話す事も予定も無いから別にいいかと一つ頷いた。
ここには鬼殺隊だけに年中食事が振る舞われるが、まさか煉獄まで来ていたとは知らなかった。
隣で会話をする二人の会話も気にせず報告書を懐へしまうと、隣から手が伸びてきて肩を叩かれる。
「ねぇねぇ冨岡さん、それって狐の君の報告書かしら!」
「……あぁ」
「まぁ!しのぶちゃんが言っていたことは本当だったのね!」
何故かやたらと嬉しそうな甘露寺に首を傾げれば、その向こうで伊黒が不機嫌な顔して俺を見ている。
出来れば関わり合いたくはないのだが、ここで甘露寺を無視しても俺に良いことはない事くらい分かっていた。
「冨岡さん、お待たせいたしま…した…」
「あっ、店員さん!注文いいかしら?」
「え、あ!はい!勿論です」
俺の目の前に鮭大根の定食を置いた月陽が甘露寺達を見て一瞬固まった。
人見知りなのだろうかと思いながら手を合わせて鮭大根をいただく。
やはり味が変わった気がするのは間違いないようだ。
こちらの方が俺の好みでありがたい。
「以上で!」
「かしこまりました。それでは少々お待ち下さい」
「……おい」
満足そうに大量の注文を終えた甘露寺に頷いた月陽が下がろうとした瞬間、伊黒がその細い腕を掴んだ。
伊黒が普段自分から声を掛けるのは文句がある時だが、今月陽は特に悪い点も無かった。
何事だろうかと俺は視界の端に伊黒の行動を入れながらもう一口大根を頬張る。
「な、何か不手際でもありましたでしょうか」
「どこかで会ったことはあるか」
「…え?」
「え、伊黒さん会った事あるんですか?」
しっかりと腕を掴んだまま月陽を見上げる伊黒に戸惑いながら甘露寺が声を掛ける。
しかし珍しく甘露寺にさえ反応をしない伊黒は目の前で目を見開いた月陽を見つめ続けた。
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