「しかし月陽は鬼殺隊に所属していないのなら給金を貰えないだろう。どう生活している?」

「昼は団子屋で仕事させてもらっていますので、それでやりくりさせてもらっています」

「…君は強いな」


ふと寂しそうな顔をした煉獄様に首を傾げる。
何故そんな顔をするのだろう。

2年前、私と煉獄様はそこまで会話などした事なんか無かったはずなのに。
もしかしたら、前に噂で聞いた元炎柱のお父上の事でお悩みなのだろうか。

けれど本人から何も聞いていない私からそんなことを聞くのは烏滸がましく思えた。


「同い年だと言うのに、君はしっかりしている」

「え、あ!そうでしたね!」

「む?」

「煉獄様はお兄さんのように感じていたので、同い年だと言うことを忘れていました」


煉獄様の意外と柔らかな髪に手を触れ左右に撫でると驚いたような顔をされた。
私に出来ることなどこれくらいだけれど、少しでも元気を出してくれたらいいな何て。


「…ならば月陽はまるで母のようだな」

「え?」

「誰かに頭を撫でられるなど、母が亡くなって以来だ」


いつも元気一杯な煉獄様は今にも泣きそうな顔をしながら、柔らかく微笑んだ。
やっぱり、ご家族の事だったのかもしれない。


「いつか」

「はい?」

「陽縁という鬼との事が解決したなら、是非俺の家に来てはくれまいか。千寿郎と言う弟が居るのだが、あの子にもこうしてやって欲しいのだ」

「弟さんがいらしたのですか」

「うむ」


それから煉獄様は千寿郎君のお話をしてくれた。
心優しく器量の良い男の子だと、まるで自分の事以上に嬉しそうに、そして幸せそうに話した。

私で言えば炭治郎や禰豆子の様な存在なのだろうか。
そこでふと思い出した。


「そ、そういえば!」

「おぉ、どうした!」

「炭治郎は、禰豆子は元気にしていますか?」


その名を口にした時、煉獄様の動きが止まった。
まずい話題だっただろうかと私が乗り出し気味になってしまった身体を引いた時、僅かに強く腕を握られる。


「…彼らを助けたのは君と冨岡だったのか」

「は、はい。でも、禰豆子も炭治郎もとてもいい子です!私も二人と戦って、禰豆子はたくさん助けてくれました!」

「そう必死にならなくてもお館様が許可を下した以上何かない限り俺達が彼らに個人的な危害を加える事はない。安心しろ」

「そ、そう…ですか。じゃあ炭治郎も禰豆子も無事鬼殺隊に合流させてもらえたのですね」

「うっ!」

「………う?」


何故か唸りだした煉獄様に顔を覗き込めば大袈裟な程身を反らせて私の視線から逃れる。
怪しい。とても怪しい。


「保護はされたけれど、無事ではないと言うことですか?煉獄様」

「…むぅ」

「…不死川様辺りでしょうか」

「うむ!あ、いや!う、うむ!」


掴まれていた腕を今度は私が掴み返しながら大量の汗をかく煉獄様に詰寄る。


「でも、そうなるのはきっと私も義勇さんも想像はついていました」

「どうしてだ」

「禰豆子が特別な鬼だと言われて、すぐ信じる者はあそこには居ないでしょう。柱ともなれば尚更」


仕方ない、とは言いたくない。
けれど、不死川様や反対を申し出たであろう煉獄様達の気持ちも分からなくはない。

私は珠世さんや愈史郎君という存在があったからこそ、すぐに理解を示す事は出来るけれど人を食う鬼しか見たことが無い人々が拒絶するのは悲しいけれど当たり前の事なんだ。


「ですから、私は不死川様や煉獄様を責めるつもりも無ければ仕方無いと終わらせる事もしません。これからそれを炭治郎達が気付かせてくれると信じていますし、私も陰ながらそれを助けるつもりです」

「そこまでしてあの鬼の少女を守る理由があるのか?冨岡や鱗滝師範も腹を切るとまで豪語していた」

「…そうでしたか」


今の私では知り得なかった情報に目を見開くも、彼らの性格を知れば何も不思議じゃない事に気付いて思わず顔が綻ぶ。

今は保護されたと言うのならば何かしらあった後少しでも認められる行いを禰豆子がしたという事。


「理由はあります。ただ私はあの子達を信用してる、それだけですが」

「…そうか。君が言うのならば俺も見守ろう」

「はい。必ずあの子達は鬼殺隊のこれからを担う子になります」


私と錆兎君たちの縁を繋いでくれた炭治郎、そして珠世さん達を人として認識して微笑みかけてくれた禰豆子。
そして何より禰豆子と炭治郎の間に結ばれた絆は他人の私達では計り知れない程の強い愛情で結ばれている。


「なので」

「?」

「虐めたりしたら許しませんからね!」


別に煉獄様達が私情で虐めることはないと分かっていても言わずにはいられなかった。
炭治郎や禰豆子が私にとってそれくらい可愛くて可愛くて仕方が無い存在だったから。


「…はは」

「特に不死川様に伝えておいて下さいね!」

「分かっているとも。本当に君は母上そっくりだ」


煉獄様がそう言ってどうしてかとても嬉しそうにするから、私もつられて笑ってしまった。
だって、とても少年のように笑うものだから。





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