「あなた達は間違ってる。派遣された隊士達は皆、覚悟を持ち守る為に訓練された子達です。この様な仕打ち、していいはずが無い」

「う、うるせぇ!お前に何が分かる!」

「私は両親を鬼に殺されました。力も無く、母の頭が潰される所を見せつけられた。だけど!」


分かる。
怖かった。
自分では到底叶うことのない存在は力無い者からして途方もない程に恐ろしいと言う事を私も良く知っている。

けれど私の過去に言葉を失った町人に語気を弱める事なく一歩踏み出す。


「私達のように刀を持たずしても力強く生きようとする人は居る!その人達は間違っても自分に手を伸ばす存在を無下に扱ったりはしない!私も、鬼に怯える人を責めたりはしない!」

「い、今お前は俺達を間違っているって」

「怯えるなと言ってはいない!この人をこんな目に合わせる事を間違ってるって言ったんだ!」


私の勢いに負けた町人は腰を引かせながら涙ながらに訴えてくる。
恐怖は誰にだってある。
私だって怖いと考える事なんか幾らでもあった。

刀も持たず、鬼への対抗手段を持たない人々がどれだけ不安だっただろうか。


「…今から私が一人で鬼を退治します。必ずや頸を刎ねます。私がここへ帰ってきた後、もしこの人達に危害を加えようものなら…分かりますね?」

「っひ…!」

「今私の鴉が貴方の仲間を連れてきます」

「あ、ありがとうございます…」

「良く耐えましたね」


唖然と私を見る隊士に出来る限り優しい声で話し掛けると、抵抗した際に殴られたのだろう頬をそっと撫でた。
彼はとても強い隊士なんだろう。

だって本来なら町人くらい倒せるくらいの力は持っているはずなのだから。
傷や蛸の出来た手を見れば、努力をしている人だって分かる。


「歩けますか?」

「はい」

「そう。ならもし次、この人達が何かしてくるようでしたら全力で振り切ってください。正当防衛です、少し殴ってしまってもいいでしょう」

「えっ…」

「分かりましたか?」


そう言えば私達の周りから町人はまた数歩距離を取り、隊士の人は無言で数回頷いてくれた。
両者に少しばかり圧をかけ過ぎたかとは思うけれど、それくらいしなければこの人の命だって危ない。

きっと他の人達も町人の代わりに生贄にされていた可能性がある。


「では、私は行きますので」

「あ、あの!」

「はい」

「鬼は西の洞穴に潜んでいるとの情報です。お気を付けて…」

「ありがとう」


隊士の人が情報をくれた事にお礼を言って、町人の間をすり抜ける。
勿論刀に手を置くのも忘れずに。


「本当に大切な人を守りたいと思うのなら、英断を。町長」

「は、はいっ!」


最後に一番後方で事の成り行きを見ていた町長へ声を掛け、その場から瞬時に姿を消しながら西の洞穴を目指す。

バサバサと後ろから音がして振り向けばかー君が私を追ってきてくれていた。


「他の人達は?」

「解放シタ」

「ありがとう」


かー君の足で光る小刀を受け取り、胸元へ隠した。
悲しい事に予想が当たっていたようだけれど、きっとこれも人の弱さなのだろうと思う。

鬼になった人間、鬼にならずとも心が弱い人間は他社を犠牲にしてまで生き延びるのが性の一つでもある。


「さて、ここだね…」


神の真似事なのだろうか、藁で編んだしめ縄が洞穴を飾り周りには食べ物が祀ってある。
それを刀で両断して音を立てれば洞穴から鬼の気配がゆっくりと近づいてきた。

柄に手を掛け洞穴を見据えると、四つん這いの牛の顔をした鬼が姿を現す。


「誰だ…俺の祭壇を壊したのは…」

「くだらな過ぎて壊しちゃった。おままごとでもしているの?」

「…貴様ァ!」

「月の呼吸 伍ノ型 皐月」


激怒した鬼が舌を伸ばして攻撃してきたのを、難無く切断して一気に間合いを詰める。
この程度の鬼なら呼吸をわざわざ使わなくても斬れそうだ。

真上に飛び込んだ私は力を込めて上段から斬り下ろすと、鬼の顔が回転して嫌な笑みを浮かべる。


「っ、」

「血鬼術、蟻地獄!」


空中で回転し、地面へ降りると私の足元が突然砂に変わり大きな穴を作っていく。
地についた私の足をどんどん砂が飲み込み動けなくなってしまった。


「引っかかったな!」

「…この程度なの」

「は…?」

「拾壱ノ型 霜月」


手毬鬼や、矢印鬼の方が強い。
私はその場から動かずに氷の刃を飛ばすと、容易に鬼の頸が宙を舞った。

身体や顔はどんどん凍っていき、灰になる前に全てを凍らせバラバラに砕け散る。
鬼が消えた事によって私の足元の砂は消え、ただの地面に戻った。


「…まだ、感覚は戻らないか」


刀をしまい、自分の手を開いたり閉じたりすると、少しだけどまだ痺れが起きる。
数日だとこんなものかとため息をついた瞬間、何かの気配が急激に近寄ってくるのに気が付いた。

この速さでは逃げても無駄だと判断した私は納刀していた日輪刀を抜き、勢い良く飛び出してきた刀を受け止める。


「ほう!なかなかやるな!」

「なっ…」

「もしかして君が狐どんか!」

「き、狐どん?!」


重い一撃を受けた瞬間、燃えるような色の髪が視界に映った。
本気では無いとは言え、なかなかに容赦が無かったひと振りに更に指の痺れを感じながら距離を取る。

大きな目を見開き、楽しそうに笑った彼は間違いなく鬼殺隊炎柱、煉獄杏寿郎様だった。



Next.





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