私は店裏にある蒼葉さんのお宅で綺麗になった愈史郎君の服を着ると、面を着けて全力疾走で町を出た。
義勇さんと少しだけ話せた。触れられた。
後ろ髪が引かれないかと言われればそれは勿論引かれるに決まってる。

だけど今正体がバレるのは良くない。

人気の無い街道へ出ると、そこで待っていたカー君と合流して鬼の出た地域へ向かう。


「カー君」

「北ヘ進メ」

「あ、はい」

「夜ニハ町ニ着ク」


可愛く寄り添ってくれた姿はどこへ行ったのか、いつも通り冷たい反応なかー君に苦笑しながら人目を避ける為に近場の森へ入る。

上弦の壱と出会す前に鬼にやられたかー君は左目を失いながらも生き長らえてくれた。
人間でさえ片目では生活しづらいと言うのに、それでも鎹鴉としての役目を投げ出さず私の元へ飛んで来てくれただけでとても心強い。

動物の記憶には干渉ができないのだろうかと思考してみるけれど、他の鴉に会わなければ何とも言えない。

運動がてらに枝の上を移動しながらまだ日が高く登る空を横目で見た。


「かー君、今から向かう所はどういう情報があるの?」

「異能ノ鬼ダガ、柱ハ向カッテイナイ」

「柱は、って事は普通の隊士達は向かってるって事だね。ならさっさと倒さないと」


私が蒼葉さんの店を手伝っている間、かー君には鬼の情報を拾ってきてもらっている。
それも私が指示した訳でもなく、かー君自ら情報を得てきてくれるのだ。

情報を伝達出来るだけでとても賢いというのに機転まできかせられるとは、流石の私でも驚いた。


「異能って事は何らかの血鬼術を使うって事だね」

「当タリ前ダ」

「手毬鬼以来だなぁ」


こちらへ来てから一度だけ鬼を斬ったけれど異能の鬼ではなかった。
下弦の鬼の血鬼術を破る事が出来たから、それなりに元には戻ってきているのだろうけれど少しだけ不安が過る。


「緊張するよー!」

「大丈夫、大丈夫。月陽ナラ大丈夫」

「ふふ、急に鎹鴉らしくなるの辞めてくれる?」


かー君なりに緊張を解してくれたのか、少しだけ噴き出した私は肩の力が抜けた気がした。
大丈夫、義勇さんに会えたし今日はいい日なはずだ。


「小芭内さんや蜜璃さん達、元気かな」


本当は炭治郎がしのぶさんの所で入院したと聞いて凄く心配だった。
下弦の鬼と対峙した時、炭治郎も禰豆子も満身創痍だったのを思い出す。

年下で実力もまだまだこれからだけど、あの子の成長は凄いと心から尊敬している。
鬼の引きもそうだけれど、あの子は鬼舞辻無惨にも会ったと言っていた。

あの子は必ず強くなる。
だから、どうか心を強く持って生き抜いてほしいと思う。

そんな事を考えながら走っていたら、日も暮れて予定より少し早く町へ着いた。


「あっ、かー君!町が見えたよ」

「ココカラ西ノ森」

「西だね。了解」


私は町の人に被害はないか聞きながら西の森を目指す。
鬼殺隊の制服を何人か見つけたから、数人はこの町へ派遣されているんだろう。


「町に紛れ込んでいる様子は無いね」


狐面をしているから最初町の人に怯えられたけれど、話してみれば皆とてもいい人達だった。
けれど、何故か様子がおかしい。

皆口でも揃えたかのように異変はないと言っていた。


「…かー君、鬼殺隊の人達の居場所を探して来て」

「了解」

「出来るなら避難もするように誘導しておいて」


私の指示に頷いたかー君は羽音も立てずに夜の町へ姿を消した。
ここの町は悪い人達では無さそうだけれど何かおかしい。

かー君の情報では既に何人か姿を消していると言っていたし、それなのに口を揃えて何でもないというのはどう考えても不自然だ。

一度町の外に出た私は呼吸を整える。


「壱ノ型 睦月…っ!」


鬼を探そうと空間を把握する為に神経を集中していると、人の気配がして鋭利なものが私に向かって投げられた事に気が付き咄嗟にしゃがんでそれを避けた。

少し遠くの方で斧が地面に突き刺さっている。


「え、えぇっ!斧!?」

「…出て行け」


人に斧を投げられたのは初めてで、少しだけ傷付いていると投げた本人なのであろう手が震えながら私を睨みつける町の人に振り返る。

その後ろには松明を持った数名の町人が一人の鬼殺隊士を人質に取っていた。


「…あまり穏やかではありませんね」

「鬼の怒りに触れれば一人残さず食われてしまう!今なら週に一人差し出しゃいいんだ、これ以上この町に関わるのはやめてくれ!」

「ならそれを何年続ける気なのですか。鬼は寿命など無い。人が居なくなるまでそれを続けると?」


かわいそうに、私は斧を投げた人を睨みながらただそう思った。
鬼に対抗する術を持たない人は、きっと言う事を聞くしかないんだ。

愛する人達を守る為に、一分一秒でも生き長らえさせる為に、こうすることでしか対抗ができなかったんだろう。


けれど、そんな鬼に対して力を持たない人々を助ける為に来たのだ。
刀を首に当てられ恐怖に顔を歪ませた鬼殺隊士に心が痛む。

まさか人に裏切られるなんて思っても見なかったんだろうな。
今、助けてあげるからね。

鬼殺隊士を捕らえている人へ瞬時に間合いを詰め、少々荒くなってしまうけれどしっかり掴んで離さない腕を蹴り上げる。
流石に驚いたのか、鬼殺隊士を庇うように立った私の側から町人達が一歩下がってくれた。





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