「お待たせしました」
「…鮭大根以外は頼んでいないのだが」
「先程お助け頂いたお礼です。どうか受け取ってくださいませんか?」
「………」
作り終わった私は、鮭大根とご飯に私が今日始めて捏ねた団子を添えて義勇さんへ提供した。
お礼と称して渡してしまえばきっと頷いてくれるだろうと笑顔のまま返事を待てば、団子を見ていた義勇さんがそっと手を合わせる。
きちんと挨拶をしてご飯を食べるところは全く変わらないなぁなんて思いながら見つめていると、箸を持った義勇さんが私を見上げた。
「有り難くいただこう」
「…はい。ではごゆっくりなさってくださいね」
「あぁ」
そう返事をしてくれた義勇さんは既に私を見ていなかったけれど、いつまでもここに居るわけにもいかず私は酔っ払いの席を片付け後ろへ下がる。
「月陽ちゃん、お疲れ様。随分と鮭大根の手際が良いんだね」
「特訓したので」
「そうかい。刀しか握ってこなかったなんて言ってたけど、料理上手じゃないか。あんた良い嫁さんになるよ」
後ろで待っていたらしい蒼葉さんに頭を撫でられるとふわふわした気持ちになる。
そして前掛けを外した私は、黙々と鮭大根を口いっぱいに頬張る義勇さんを最後に一度だけ見て蒼葉さんに頭を下げた。
「では、私は行きますね」
「あぁ、今日は出掛ける日だったね」
「はい。本当はもう少し手伝いたいのですが予定がありまして…お力になれず申し訳ないです」
「いいや、助かったよ。また2日後に帰ってくるんだろ?」
「勿論です。お手伝いしに必ず帰りますので、変な輩には気を付けてくださいね」
寂しそうにする蒼葉さんへ今度は私が頭では無く手を撫でて微笑みかける。
旦那さんを亡くしているからなんだろう、鬼殺に行こうとする私をいつも心配してくれた。
勿論鬼を狩りに行くとは言っていないけれど、生前鬼殺隊だった旦那さんを持つ蒼葉さんは何を言わずとも察してくれているんだろうと思う。
「帰る前には必ず手紙を出しますから」
「約束だよ」
「はい」
本当は約束なんてできない事、互いに分かっている。
それでも私はこの言葉が少しでも蒼葉さんの心を落ちつかせる事が出来るのならそれでいいと考えていた。
「行ってきます」
「行ってらっしゃい」
少し早めに出たのにも理由がある。
それは勿論今目を輝かせてご飯粒を口の周りに付けている義勇さんと鉢合わせしないようにと調整しての今の時間の出発を決めた。
幸い既に義勇さん以外のお客さんは居ないから大丈夫だろう。
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