※宇髄天元


月陽は控えめに言っても嫁たちの次に可愛い。
腕も申し分は無い。

だが派手さが足りねぇ。
化粧っ気がなさ過ぎる。


「冨岡お前よぉ、もう少し月陽にお洒落させてやれよ」


屋根の上から穏やかに過ごす二人に小言を漏らしながら退屈な時間を過ごす。


「だーっ、何で置いてくんだよ!これだからダメ岡なんだ!」


月陽を置いてさっさと歩いていくあいつに軽く後ろで髪を縛り変装しながら地面に降り立ち小さい背中に声を掛ける。


「そこのお嬢さん!」


町人らしく爽やかな笑顔と声で。
だと言うのに面倒くさそうに振り向いた月陽は近くで見るとそれなりだ。

隠していない刀を指摘すればすぐに俺だと気付いたし、気配察知は置いておき勘の方はなかなかだろう。


(…まぁ、柱になるにはまだまだってとこだな)


なんてまぁ考えながら目の前のこいつとそれなりに本音と冗談で会話を繋ぐ。
いい加減冨岡もこいつが居ねぇ事くらいには気付きそうだな。

そんな事を思っていると流石は俺だ。

随分と不機嫌そうな顔で俺と月陽の間に割り入って来やがった。


「よう、冨岡」

「宇髄か。何の用だ」

「お前の所に柱候補の女が住み込みで任務を共にするって聞いてな。ちょっくら派手に揶揄いに来たってわけだ」

「いえ、さっき奥様方の機嫌を取る為の土産を買いに来たと仰ったではありませんか」

「まぁそれも込みだ!」


先日少しばかり無茶をして怪我をしたら、そりゃもう泣かれるわ叱られるわ鼻水を付けられるわで大変だった。

だから嫁たちの喜ぶ顔の為に出たってのも嘘じゃねぇ。


(しかしまぁあの冨岡が誰かに執着するとはなぁ…)


柱にも、あのお館様にも冨岡は冷静だしどこか距離を感じるってのに。

適当に切り上げるフリをしてあの二人を追ってみれば面白えもんが見れた。

あの冨岡が、あの冨岡がだ。
女に簪だぞ。

簪を贈るって意味は知らねぇんだろうが、この短期間で随分と距離を縮めたようだ。

胡蝶にでも話したらある意味興味津々で食いついてきそうだと思いながらこれ以上は野暮と今度こそ踵を返す。

嫁たちにもいい土産話しが出来そうだ。

それとは別にちゃんと物は買うがな。


以来俺はあいつらを見る度に心が踊った。

柱合会議ではいつの間にかあの伊黒も月陽に絆されてるわ、喧嘩するわ派手に面白そうな展開に目が離せねぇ。


「しかしよぉ、何であそこまでやってて気付かねぇんだ?」

「アァ?」

「あ、いや。何でもねぇわ」


思わず口をついて出た言葉が惚れた腫れたに冨岡と同じくらい遠そうな不死川が反応してすぐに首を横へ振った。
仮に意外と恋愛事にこ慣れてたとしても冨岡の話題じゃ俺に面倒が降りかかる。


「デケェ独り言だな。歳かァ?」

「うっせーちげぇわ」


自分の年齢を棚に上げやがって。
憎たらしい笑みを浮かべた不死川を小突いて俺も冨岡達に近付く。

さっきは随分面白ぇ自己紹介してたし派手に揶揄ってやるか。

実際吹き出してたのは俺くらいだったからあいつも分かってるだろうが。

月陽の周りには自然と人が集まる。
礼儀正しく見せるくせに存外面倒くさそうな時は顔に出るし冗談も通じるから冨岡とは正反対の人種である事は月陽を知ってる奴からしたら周知の事実だろう。

遠巻きに簪に突っ込んでやると初めて会った時の猫被りはどこに行ったのか、俺相手に話があるとまで言ってきた。

アレくらい粋がいい方が可愛がる側も気合が入るってもんだ。


「宇髄さん、宇髄さん」

「おう」

「簪のお話し、詳しく聞かせてもらっても?」

「っはは、お前ならそう言うと思ってたぜ!」


なぁ冨岡よ。
月陽は俺程とは行かねぇがモテるぞ。
あの伊黒でさえ気に入ったんだ。

伊黒や俺が月陽の名前を呼ぶ度に羨ましそうな視線を向けてたのも本人ですら気付いてねぇんだろうな。

テメェを信じると言った女、みすみす手放すんじゃねぇぞ。

焦れったい青春を過ごすのは勝手だが、失ってからじゃ遅いからな。


遠ざかっていく二人の背中を眺めながら、あの日の話を胡蝶にしてやった。

俺からすりゃどっちも想い合ってんのは明解なんだがな。

鈍感同士長引きそうだと俺は苦笑を浮かべた。




end.





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