※村田視点
月陽さんは愛らしい。
初めてあの子と出会った時も、そして甘味処で働く姿もずっと思ってる。
突然姿を消して、数日後俺以外の月陽さんの記憶が無くなっていた事には凄く驚いたが。
「やぁ、月陽さん」
「いらっしゃいませ!村田さん」
厄除の面を付けた彼女を見つけた時はどれだけ安堵した事か。
俺が記憶があると知った時の月陽さんの儚い笑顔は今でも忘れられない。
冨岡は未だに記憶は戻っていないみたいだが、それでも彼女の事を気に掛けているようで珍しく行動的なあいつに驚かされた。
「今日はたくさん山菜が手に入ったんですよ。あと筍も!」
「へぇ、じゃあ天麩羅定食にしようかな」
「そう言ってくれると思いました!」
会えば会うほど、健気な子だなって思いが大きくなって気付くと蒼葉さんの営む甘味処へ通ってしまう。
夜は厄除の面を付けて鬼を狩り、日中は身を寄せている甘味処の手伝い。
俺達は任務が終わって飯を食べるのもやっとな時だってあるのに。
この間なんて蒼葉さんを怪我させた男達をあっという間に片付けてしまったらしいし、色んな意味で男顔負けだ。
毎日毎日、彼女は強く生きてる。
もう何度目か分からない程、鬼殺隊である月陽さんや甘味処の店員としての月陽さんを見てきた。
くるくると踊るように注文を捌き、調理も空いた時間に蒼葉さんの手伝いもして。
人として本当に凄い子だなと思う。
「あ、この後俺暇だから片付け手伝うよ」
「いえ、悪いですよ!村田さんもお疲れでしょう?」
「明日は非番だから、ちょっとくらい手伝わせてくれ」
普段飯の面でも世話になって、鬼狩りも世話になってるんだ。
頑張る月陽さんの力にならせてほしいと言う事を伝えれば困った様に、嬉しそうに笑って礼を言ってくれる。
食事を終えた頃には来ていた客も居なくなり、食器の片付けを手伝う。
俺のなんてことない話に笑って頷いてくれる彼女に不覚にもときめいてしまうのは仕方ないだろ。
こんな可愛い子が隣で皿拭いてんだから、ちょっとくらい勝手に恋人気分味わったっていいよな。
「…月陽」
「わ、」
「ぎゃーーーー!!!すいません!!嘘です!!誤解です!!」
「え?」
「……うるさい」
そんな考えをしている最中、冨岡の声がすぐ後ろから聞こえて思わず月陽さんの声を遮るほどの大きな声を出してしまった。
どんだけ鋭いんだよ!目ざといんだよ!
そこまで出来んなら早く記憶取り戻せよ!
なんて心の中で本音を叫びながら自分でも驚くほどのスピードで月陽さんと距離を取る。
彼女と言うよりは冨岡と、だけど。
「ご飯を食べに来て下さったんですか?」
「それもある」
「…」
それもある、じゃねぇんだよ!
と突っ込みたい気持ちを何とか飲み込んで、片付け途中だった食器を元の位置に戻って洗い流す。
少し座って待っていて欲しいと言った月陽さんがまた隣に戻って来て、火を起こしながら手際良く俺が洗い流した食器を戻している。
(…ほんと、可愛いな)
接客中の笑顔も、鬼殺を終え隊士を労る笑顔も可愛いと思うけど、やっぱり月陽さんの笑顔は冨岡といる時が一番だ。
あいつも、まるで憑き物が取れたかのように彼女といる時の表情が柔らかい。
お互いがお互いを良い方向で示しあえてるから、出会うべくして出会ったんだろうなって思う。
「じゃ、俺はそろそろ行くよ」
「すいません村田さん。とても助かりました。ありがとうございます」
「いーっていーって!」
律儀に俺みたいな平隊士に頭を下げる所、本当に変わんないよな。
月陽さんに手を振って、捲っていた袖を直しながら調理場を出る。
律儀に見送りに来てくれた月陽さんに振り返れば何かあるのかと目を丸くして。
「月陽さんは笑顔が似合うよ」
「へっ!?きゅ、急にどうしたんですか?」
「いつもの笑顔も可愛いと思うけどさ、やっぱりあいつに向ける笑顔が一番可愛い」
「あ、う…そっ、そんなに変わってますか?私…」
「うん。俺、応援してるから」
照れながら視線を彷徨わせる1つ下の彼女は年相応に愛らしい。
冨岡が見ていない事を確認してちょっとだけ頭を撫でた。
「また来るよ」
「あ、はい!お手伝いして下さって本当にありがとうございました!」
「どういたしまして。それじゃ!」
「…私、村田さんとお話する時間も好きですから!だからどうか、また元気な顔を見せて下さいね」
「おう!」
俺達鬼殺隊の隊士や隠を含め、明日も息をしてるなんて確証は無い。
それは柱である冨岡も、個人で行動している月陽さんにも言える事だ。
だけど、出来る限り生きて二人の幸せを、行く先を見たい。
だから俺も頑張るよ。
お前達に本当の意味で心からおめでとうと、幸せになれよって言えるようにさ。
end.
村田サイドのお話し。
恋心は無いけど、人としても剣士としても月陽さんを尊敬してるし、年下でもある月陽さんが妹の様に可愛いと思ってる。
義勇含め二人に(兄弟が居たかは不明だけど)兄心を擽られちゃう。
妹や弟が居たらこんな感じなのかなって思ってる。
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