※後藤視点


鬼殺隊には藤の家という無償で寝泊まりをさせてもらえる所がある。
各地で隊士が助けた結果がそこへ行き着いたり、融資と言う形で援助してくれる所もあった。

ある場所の甘味処は俺達鬼殺隊へ食事の提供をしてくれる。

そこの女の子がまぁ可愛いと有名なんだが。


「後藤さん!こんにちは!」


この子が噂の月陽なんだけどさ。
今日も笑顔が眩しいし、ここ最近では俺の癒やしナンバー1。

あの恋柱にしか興味の無いはずの蛇柱や、まず女自体に興味があるのかすら不明な水柱や霞柱まで虜にしてるって噂もある。

実際水柱なんか通い詰めてるってんだからあの人も男なんだなと思ったのは記憶に新しい。

この子に振られた隊士が何人居るか分からない中俺はゆっくりと距離を詰めて今では名前呼びにまで辿り着いた。
無理なのは分かってるから友達にくらいなったって良いだろ?


「今日は何にしますか?後藤さんが好きそうなのは…」

「月陽のオススメでいいよ」

「了解です!」


にっと歯を見せて手を額に当てながら笑う月陽に何だそれって言えば挨拶だと言って蒼葉さんの元へ戻っていく。

あんな子が彼女だったら幸せなんだろうな。
とは言えなんの取り柄もない俺が柱でも落とせない女の子に振り向いてもらえるわけないが。


(なんて、考えてたのにな)


数ヶ月前の俺を全力でぶん殴りたい。
だけどまさか甘味処の可愛い子が突然柱になって現れるなんてあると思うか?普通。


「永恋月陽さんってあの蒼葉さんとこの可愛い子だろ?」

「まじかよ、あんな可愛い子が俺らより強いとか男として自信無くすわ」

「…お前らそんなんだから振られんだよ」


気持ちは分かるが任務中に地面に蹲ってるこいつら眺めてると月陽じゃ無くても御免だと言いたくなる。

柱就任のお達しが来て衝撃の走った隊士がどれだけ居る事か。


「あ、後藤さーん!」

「う、わっ!」

「カステラ以来のお久しぶりですね」

「そうだ…じゃねぇ。そうですね」

「………」


突如目の前に現れた月陽……さんに流石に前の様にため口は使えねぇと口調を改めれば不服そうな瞳に射抜かれて心臓が高鳴る。

睨んでも可愛いってどういう事だよ。


「永恋さん!」


緊迫した声が月陽さんの名前を呼び意識を戻す。
そうだ、俺達は遊びにここへ来たわけじゃない。


「こちらへ!」

「見つかりましたか」

「っ、」


潜んでいた鬼が見つかったのだろう。
数名各所に伝達係が居るはずだがここへ辿り着いたのは一人。

ざわつく雰囲気に月陽さんが簪の鈴を鳴らして一歩前に出る。

その音と共にあの柔らかい雰囲気は消え失せ、慌てる隠や隊士の目が一瞬で奪われた。


「隊士の方々は私に続いて、隠の方々は負傷者の手当を。落ち着きなさい、慌てても良い事はありませんよ」


凛とした声が夜の不気味な雰囲気を程良い緊張感へ塗り替える。
彼女が柱であり、あの炭治郎達や他の柱と共に上弦の鬼と戦ってきた狐面だと言う事がそれだけの事で照明された気がした。

可愛いと思っていた甘味処の子は、凛々しく美しい月柱として今俺達を纏め導く存在なのだと。


「…はは、」


能ある鷹は何とやらって言うがその化身の様な奴だな、と思う。

これは水柱も蛇柱も夢中になる訳だ。

数名の隊士と俺を含む隠と鬼が暴れる場所へ向かい、初めて見る月の呼吸に息を呑んだ。


「拾壱ノ型、霜月」


舞うように剣技を魅せる月陽は月から降り立った女神のようで、隊士達の血で濡れた大地を白銀へ変える。

辺りを凍らせた月陽が唖然とする鬼へ瞬く間に近付き音も無く頸を落とす。

透明の刀身が月夜に反射して、俺達は映画でも観ているような気になった。

それ程に月柱たる月陽の姿は神々しい。


「急いで負傷者の搬送と応急処置を」


別人のようにしっかりと指示を出す彼女に従い息のある隊士へ駆け寄りながら納刀して鬼の居た場所を見つめる後ろ姿を横目で捉える。


「…きちんと償っておいで」


この声を拾えたのは俺以外に居るのだろうか。
優しく自愛に満ちた小さい声は間違いなく月陽から聞こえて、胸が締め付けられる。


「月陽」

「!」


消えてしまいそうなその姿に声を掛けようかと思った時、静かに、それでもしっかりと耳に響く低い声が月陽を呼ぶ。

驚いて振り返った月陽の顔が一瞬で花が開いたように笑顔が浮かんだ。


「義勇さん」

「良くやった」


カステラ食った時の月陽でもあんな笑顔、見せた事ねぇ。
水柱も、あんな顔して笑うんだなって苦笑を漏らす。

少しの風で靡く柔らかそうな髪を、それはもう愛おしそうに優しい手つきで触れる水柱。


「へへ、緊張しました」

「そうか」


月陽という花が綺麗に咲くのは水柱の元でだけなんだろうな。

そう思いながら、俺は目の前で呻く隊士の膝へ包帯を巻く。


「おら、お前痛がってるけどそんなでもねぇだろ」

「もっと優しくしてくれよ!」

「へーへー。俺は忙しいから自分で山降りる努力しろよ」


水柱と関わる月陽を見たのは数回だが、それだけでも二人が人として、ただの男女として幸せになって欲しいと思えた。

水柱といる時のお前、死ぬ程可愛いわ。


「…自覚した途端失恋とか笑えるな」


頭を掻きながら、いつか鬼の居ない世になったらカステラ持ってお祝いしてやるかなんて考える。

お前より弱い俺に出来る事なんか無いかも知んねぇけど、祈るくらいだったら許してもらえるよな。


甘味処のあの子は、俺達を導き照らす月柱になった。






end.

俺はお前らと違って一線弁えてるぜ、って言いながら心の中で何だかんだ月陽さんを好きになっちゃってる後藤さん。

失恋多発注意報ですね笑





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