※一部冨岡視点


「冨岡さん、ご飯ができましたよ」


お館様からの命により屋敷に住むようになった永恋が襖を叩く音が聞こえる。

昨夜も一昨日の夜も遠い場所に遠征しに行って帰ってきたばかりだと言うのに元気があるなと寝返りを打つ。


「あれ、寝てるかな」


独り言なのか声が小さくなった永恋に罪悪感が少しだけあるが正直食欲が無い。

掛け布団を被り直そうとしたその時だった。


「冨岡さん鮭大根好きだって言ったから作ったんだけど、夕餉で出せばいっか…」

「食べる」

「ぎゃ!冨岡さん、前開いてます!!」


全力で起き上がり襖を開ければ間を置いて目を自分で隠した永恋に夜着を見下ろす。
そうか、普段一人だったから気にしなかった。


「さ、先に行ってご飯の準備してきます…!」


逃げる様に走り去った永恋に見えていないだろうが首を縦に振って洗面所へ向かう。
歯を磨いている途中で髪を結っていない事に気がついたが、肌を露出してる訳ではないしいいだろう。

鼻孔を煮物の優しい香りが擽って腹が鳴る。


(…家で何かを食べるのはいつぶりだろうか)


柱になりたての時に隠が作ってくれた気もするがそれも記憶に残るのはぼんやりと食べた事だけ。

のんびりと居間へ歩いて向かっていると、割烹着を着て着物に身を包んだ永恋に一瞬姉さんの後ろ姿が重なる。


「あ、今運んでるので座って待っていて下さいね」


頷いて居間へ行きいつもの場所へ腰を下ろす。
目の前には味噌汁や焼き魚といった健康的な食事が並んでいる。


「お待たせしました!」

「…別にこんな事をしなくてもいい」


柱に付き従い活動する永恋にとって家事までやるのは辛いだろう。
驚いた表情でこちらを見る永恋を見る事なく手を合わせて目の前の食事を口に運ぶ。


「…うまい」


人の作った料理はうまい。
だが永恋の作る食事はなぜだか特別うまく感じた。

姉さんの面影を見てしまったせいだろうか。

自分が呟いた事も忘れてただ箸を進めていると視線を感じて顔を上げる。


「良かったらおかわりもありますからね」

「…、いただく」

「了解です!」


変わった女だと会った時に思ったが、どうして俺が食事をするだけの風景を見てあんなに優しく笑うのかやはり理解が出来ない。

見目もいい、料理も美味い、性格も悪くない。多分。

貰い手など幾らでも居るのではないか、次に永恋へ抱いた印象だった。

それから食えない状況や作れない状況の時以外は飯が出てくるようになった。

台所に立つ永恋を眺めていると今までは寝に帰る為だけにあった屋敷も自分の家という感覚へ変わった。

家具や調理器具も増え、それを使う永恋を眺める。

鬼狩りをする時以外の時間が、普通の日常になったのは彼女のお陰かもしれない。


「冨岡さん、褌ってそこの棚で」

「そういう物は洗わないでいい」

「えー、私気にしませんよ?」

「……」


俺の裸は気にするのにどうして直に身に着ける物は平気なのだろうか。
とても不思議でならないが永恋にとって下着は衣服としか思わないのかも知れない。

女というものは分からない、そう思いながらため息をついた。


「ぶわ!」

「っ、」


洗濯物を運んでる最中、何となく眺めていると一際強い風が吹いて永恋の隊服が下から捲れ上がる。

両手に一杯抱えているせいで押さえつける事が出来なかったのか下着が見えた。


「…………み、見ました?」

「………」

「う、うわぁ…すみませ…粗末なものを…」

「粗末じゃない」

「えっ、」


驚きはしたが別に気分は害していないと言う事を伝えたかった。
何事も無かったかのように首を横に振って永恋を眺めるのをやめようとした時嫌に冷たい視線を受け自分の発言を振り返る。


「…違う。変な意味じゃない」

「は、はは。ですよね…失礼、しました…!」


やはり女と住むのは俺には難しい。
放っておけばその内気にしなくなるかと思ったが、永恋は暫く着物で洗濯をするようになった。

あいつは、鬼殺の時によく見えてる事は知らないのだろうか。


「ぐぇっ!」


木の根に足を引っ掛け転んだ永恋を後ろから見て自分の頬が少しだけ緩んだ気がした。




end.


あって間もない二人!
こんな感じで番外編までいかないくらいの短編を書いてきます!





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