愈史郎君や珠世さんが解してくれたお陰で少しだけど体力が戻ってきた気がする。
長時間走っていてもそこまで体力の消耗はされなかった。


「カー君、那田蜘蛛山に何かあるの?」

『下弦ノ鬼ダ』

「下弦の…分かった」


さっそく鱗滝様から貰った面を使う事になりそうだと、頭から顔に移動させる。
面の内側からは視界が遮られることなく辺りが見渡せて、流石だなと思いながら動かす足を早めた。


「…ここだね」


異様な雰囲気に包まれた山を見上げ、久し振りの感覚に少しだけ手に力が入る。
前の様にとは言わなくても隊士達の援護くらいは出来るはずだと自分に活を入れて山へと踏み込んだ。

辺りを見回し色々な所に張り巡らされた糸を切ってみると、上から大きな物が目の前に落ちてくる。


「繭?」


落ちてきた繭を恐る恐る刀で突くと、突然中からドンドンと音がして盛大にびっくりしてしまう。
ふと聞こえた声に浅く繭を斬れば、中から裸の女の子が出てきて目を見張った。


「え!?」

「げほっ…た、助かりました…」

「ま、待って!貴女服は!?」

「中で溶けてしまって…」

「…とりあえずこれ羽織って」


蹲るように身体を両腕で隠した女の子に自分の羽織を着せると、上を見上げる。

何個もの繭が吊るされていて、中には動く物があった。
とりあえず目に入る全てを斬り落とすと、水上になった中身のモノと目に入れるのも憚られるような形状になった人だったものと様々で。


「…っ、貴女は見ないで」


中身を確認する私を見ていたのか、後ろから嗚咽が聞こえて振り向くと口を抑えながら震えている。
私だってキツイけれど、それでも手を休める事は無かった。

もしかしたら助けられる人がいるかも知れないから。


「…これで、最後」


ブツリと音を立てて繭が開くと、中身は髪の毛が爛れ落ちた男性隊士だった。
首元に手を当て、脈を測ると辛うじて生きている。


「カー君、応援を呼ぶ事は出来る?」

『出来ル』

「お願い」

「…あの」


カー君へ指示を出しながら持っていた風呂敷で男性を包んでいると、助け出した女性隊士から声を掛けられる。


「何ですか?」

「貴女は、鬼殺隊…の方でしょうか」

「……元、ですよ」

「その狐面、見た事があったので」

「そうですか。なら貴女は長く隊士として鬼殺隊に所属してるのですね」


震える身体で必死に私に声を掛けてくれる女性隊士の肩を安心させる為優しく撫でながら問いに答える。
曖昧な返答しか答えない私に戸惑いながら見上げる女性隊士へ面の内側で苦笑した。

この面を見た事があるという事は、鱗滝様の一門から出た子どもたちを知っているという事なのだろう。


「安心して下さい、今応援を呼んだからきっと大丈夫です」

「しかしまだ鬼は…」

「ここから先はどんな鬼も通しません」


繭にされた時の恐怖がまだ消えていないのか、再び震え出した女性隊士の髪を梳いてあげる。
日輪刀に手を伸ばし、壱ノ型で空間を把握しても辺りに鬼は居ない。

一瞬炭治郎の様な人影が見えたからもしかしたら彼も来ているかもしれないなと思いながら立ち上がる。


「あの、お名前は…」

「ごめんなさい。今は教える事が出来ないんです」

「そ、そうですか」

「どうか長生きして下さいね」


私に手を伸ばした女性隊士の手を取って面の内側から微笑みかけると、それが伝わったのか強張った肩がゆっくりと力を抜いた。


「あの、羽織を…!」

「いいの。必要がなくなったら捨ててしまって構いませんから」

「…ありがとう、ございます」


出来れば私の物は残して行きたくはないけれど、この子の女性としての尊厳を守る為なら仕方ないとその場を後にする。


「あれって、確か水柱が付けてた物にそっくりな気がする」


そんな呟きをしていた事に気付かず炭治郎が居るであろう場所へ向かう。
カー君が下限の鬼と言うなら間違いないと思う。
あの子にまだ十二鬼月は早過ぎる。


「炭治郎」


優しいあの子はこれからの鬼殺隊の将来を背負って立つ子だ。
まだ成長途中の炭治郎を殺させる訳にはいかない。

体格の小さい鬼ではあったけれど、あの気配は間違いなく炭治郎より格上だ。
早く行って少しでも力にならなくてはと思いながら最短距離を走れば、赤い糸の様な物が炭治郎達の上に掛かっている。


「炭治郎!!」


助けなくちゃ、そんな焦りから私はこちらへ向かってくるもう一つの気配に気付くことができなかった。


「月の呼吸 伍ノ型 皐月!」


私が赤い糸を斬った瞬間、別の方向からも斬り合わないよう炭治郎を守るべく振るった人物が居た。
交差するように着地した私は振り返り面の奥で目を見開く。

あれは、義勇さんだ。





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