「っうわー!流石不死川様…」

「まだまだだなァ!!」


翌日、義勇さんの前に私も相手になれと不死川様に言われて稽古したのはいいけど力強く広範囲な技に木刀を砕かれくたくたと地にお尻をついた。

怪我をしないようにと折られた所で終了したけど汗をかいたからか喉が渇く。


「月陽、水を飲んでこい」

「ありがとうございます」

「おーおー、倒れる前にさっさと行っとけ」


手をひらひらさせた不死川様と頭を撫でてくれた義勇さんに頭を下げて近くにある川へと向かう。

二人きりにして大丈夫だろうか、義勇さんが怒ることは無くても不死川様がイラっとしてしまうかもしれない。


「…何かやな予感がする」


川で顔と手を洗った後、水を一口飲んで手拭いを二枚濡らす。

汗を拭けるようにと乾いた物を持ってきたけれど動いた後は冷たいほうがサッパリするだろうから。


「何も起きてませんように…」


ため息をつきながら走って戻れば目の前に人が落ちてきて目を剥いた。


「たっ、炭治郎…!?」


降ってきた炭治郎に混乱する頭を落ち着かせながら飛んできた方向へ目をやれば、それはもうとっても怒った不死川様が居た。


「うぉ…ど、どうしたんですか…」

「うるせェ!!」

「ちょっ、義勇さん!説明して下さい!」

「……炭治郎がおはぎを作ろうと」

「流石の私も意味が分かりませんけど!?」


何故か得意げに話し始めた義勇さんに突っ込みながらもこちらへ背中を向けた不死川様に走り寄る。
短い羽織を掴めばいつもより鋭さの増した瞳に射抜かれるけど、確か二人は接触禁止を出されていたし理由を聞いてちゃんと謝っておきたい。


「あの、良ければ事情をお聞きしても…?」

「あのガキが意味分かんねぇ事ぬかしてるからだァ」

「う、うん?まぁ確かに接触禁止なのにおはぎを作るとは…んん、私も分かってませんがそこまでの経緯を…」

「別にテメェにゃ関係ねえ話だァ。さっさとあっちに戻って面倒でも見てやれ」

「手当はしますが、もしこちらが失礼をしたのなら謝罪したいです」


羽織を掴んだ私の手を軽く払い落とすとさっきより落ち着いた感じの不死川様に尚も食いついてみる。

炭治郎も私の大切な子だ。
あの子が悪意を持って何かをする事は無いけど、ある意味炭治郎と不死川様も水と油みたいな所があるから。


「テメェが謝らなきゃなんねぇ事は無ぇよ」

「そう、ですか。でしたら、これをどうぞ」

「アァ?」

「私までお相手して下さったお礼です」


端に寄せてあった包みを持って手拭いと一緒に渡す。
中身は言わなくても察してくれそうだし、とりあえず受け取ってくれた不死川様に頬を緩めた。


「……物に罪はねぇからなァ」

「ふふ、ですね」

「精々あのガキをテメェらで扱いてやれ」

「はい。道中お気を付けて」

「おぉ」


少し落ち着いた様子に安心して手を振るとそのまま振り返らず手だけを振りながら歩いて行く背中を今度はきちんと見送る。

さて、と。


「義勇さん、これで炭治郎の顎冷やしてあげましょう」

「あぁ」

「…ふふ」


私と不死川様が話している間に炭治郎の頭を丁寧に畳んだ自分の羽織へ乗せているのを見て笑みが漏れた。

義勇さんのこういう所が私は本当に好きだし、何だかんだ慕われる理由なんだと思う。

膝を抱えて座る義勇さんの横に座って炭治郎の顎へ濡らしてきた手拭いを当てればありがとう、と声が聞こえた。


「これ、義勇さんのだったんですけど使わせてもらっちゃいました」

「構わない」

「ん、」


何だか嬉しそうな義勇さんが頬に口づけてくれて私も嬉しくなった。

寝ていたとしても炭治郎が近くに居るから恥ずかしいけど少しだけ、って肩に寄り添って持ってきていたお茶とおはぎを義勇さんと食べる。


「これを渡していたのか」

「はい」

「月陽は不死川がおはぎを好きな事を知っていたんだな」

「あれ、言ってませんでしたっけ?」

「…だから、不死川は」


もちもち頬を膨らました義勇さんがおはぎを真剣な眼差しで見つめる。
天然発言しそうな気がするのは気のせいだろうか。


「月陽が来ると機嫌が治るのか」

「いや、流石にそれはないです」

「!?」

「読みが外れた!?みたいな顔しないで下さいよ、もう」


義勇さんの相変わらずな表情に笑い声を上げながら口の端についた餡を取ってあげる。
今日も私の旦那様は可愛いなぁ。


「不死川様は優しいですよ。多分義勇さんと炭治郎とはすれ違っちゃってるだけです」

「嫌われてないんだな」

「んん…うん」

「?」


嫌われてない、はず。
一瞬考えて私は首を縦に振った。




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