あれから数ヶ月。
狐の君、いや。永恋さんを思い出した私は冨岡さんと再び仲睦まじく歩く姿を見て人知れず涙を流した。

血鬼術によって記憶を消されていた鬼殺隊の隊士達。

永恋さんは那田蜘蛛山での一件以来、意外に近い場所で私達を守ってくれていた。

鬼殺隊で噂の団子屋は隊士だけに昼食を格安で作ってくれている所で働いていたのだ。


昼はそこで給仕の仕事をして、夜は鬼の頸を狩る。
繭の中で死を待つことしか出来なかった私を偶然にも居合わせた彼女が助けてくれた。

冨岡さんが記憶が無いにも関わらずあの団子屋へ通って永恋さんに再び恋をしていたのだと思い出した時にどれ程私が喜んだことか。


記憶を取り戻した冨岡さんはそれと同時に永恋さんを奥様に迎えた。

最終決戦が近いと柱稽古が始まり、休憩を取りに来た私が見たお二人の後ろ姿。


「今日は鮭大根おやすみです!」

「!?」


ご夫婦になっても変わらぬ仲の良さ、そして冨岡さんの永恋さんだけに見せる一面は変わらない。

お二人を推す同士は随分と減ってしまったけれど、それでも私はその人達に今日の事を話すだろう。

永恋さんが居なくなってから入った隊士も、あのお二人を見て心から応援する人が増えたのだ。

狐の君として再び会ったあの時も、そして今も彼女の美しい髪には冨岡さんが贈ったと言う簪が愛らしい音を奏でて揺れている。


「月陽」

「わわっ!」


そして任務外の時の永恋さんの愛らしい一面も変わっていない。

きっとこれからも、お二人は変わらずこうして共に歩んでいくのだろう。


「むぅ…すみません」

「いい。俺が見ているから」


恥ずかしそうに、照れ臭そうに唇を尖らせる永恋さんに穏やかな視線を向けながら髪に触れる冨岡さん。

今日も変わらずお二人は素敵だ。

私の心をこんなにも満たしてくれる。

未来に夢を見させてくれる。


「あ、」

「?」


目を細めてお二人を見ているとたまたまこちらを振り向いた永恋さんと目が合う。

あぁ、あの時と同じだ。

私は永恋さん達に頭を下げると柱になったにも関わらず丁寧に頭を下げて挨拶をしてくれた。

そしてその足を私がいる方へ向けて歩み寄ってきてくれる。


「こんにちは。那田蜘蛛山以来ですね」

「よく会うな」


こんな私の事をお二人はきちんと覚えていてくれる。
たまたまお館様の言付けをお伝えしに、町中でたまたま居合わせただけの私に、那田蜘蛛山で身体を震わせて死にかけていたただの隊士の私を。

たったそれだけのご縁を覚えて、私をしっかり認識してくれている。


「えっ、あっ…何で泣いて!?」

「…俺か?」


突然涙を流した私を気持ち悪がりもせず、慌てだすお二人に首を横に振って違うと否定した。

優しい優しい水柱の冨岡さんと月柱の永恋さん。


どうか、どうかお二人に沢山の幸福があらん事を。
涙が止まらず、必死にお二人が大好きなのだと拙い言葉で説明すると困っていた表情を驚きに変え、そして微笑んでくれた。


「ありがとうございます。あなたもどうか幸せになって下さいね」

「礼を言う」


神様、神様。

どうかお願いです。

私の幸せはお二人が共に笑い合う未来。

どうか、どうか。

鬼殺隊に、お二人に勝利を。

その為ならば私は喜んでこの身を差し出しましょう。



それが私の一番の願いなのです。







Next.

那田蜘蛛山で月陽さんが助けた女性隊士視点。







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