次にお二人にお会いしたのは町だった。

隊服ではなく着物に身を包んだ永恋さんと冨岡さん。


「義勇さん、見てください!可愛い」

「そうだな」

「そう言えばこの前…」


楽しそうに辺りを見回しながら冨岡さんと指を絡める永恋さん。
日輪刀を互いに持ち、凛としたお二人はよく見掛けたがあぁして見ていると町中に居る恋人同士と何一つ変わらないのだなと微笑ましくなる。

可愛らしい櫛を見ている永恋さんの顔を見ながら頷いている冨岡さん。

何を考えているか分からないと感じていたあの視線も永恋さんが一緒だと手に取るように分かるような気がして思わず胸を抑えた。

きっと櫛を見ている永恋さんを可愛らしいと思っているに違いない。


「月陽」

「わ、」


櫛に夢中の永恋さんが少し距離を置いた所に居た町人にぶつかりそうになった所を冨岡さんが腕を引いて事無きを得る。

永恋さんの可愛らしい所は任務外となると途端に年相応の女性になる所だ。
前に訪問した時は永恋さんが冨岡さんの面倒を見ていたと言うのに今度は面倒を見られている。


「すみません、私ったら櫛に夢中に…」

「いい」


淡白な返事も穏やかな瞳を見てしまえば冨岡さんから永恋さんは向ける愛情はとても分かりやすい。
照れたように微笑む彼女と、それを優しい眼差しで見つめる彼は誰がどう見てもお似合いの恋人同士だ。

私の同士にも是非この胸熱な光景を事細かく話さねばなるまい。


「あ!」


推し二人のある意味心荒ぶる光景に思わず両手を合わせていると、永恋さんの声が耳に入った。

どうしたのだろうかと目を開くと私に向かって笑顔を向ける永恋さんと目が合った。


「こんにちは。お久しぶりです」


私に向かって手を振りながらこちらへ歩いてくる永恋さんと冨岡さんに目を見開く。
推しが私を認識して近寄ってきてくださるなんて、それだけで最高な一日に変わってしまう。

不死川さんにこれでもかと叱られたことなど頭から吹き飛んでしまいそうだ。


「お買い物ですか?」


慌てて永恋さんと冨岡さんに頭を下げると親しげに話し掛けて下さる。

私は不死川さんのお使い(という名のご機嫌取り)に来たのだと教えると冨岡さんが眉を寄せた。


「不死川は」


一旦区切られた言葉に首を傾げる。
永恋さんも何を言うのだろうかと冨岡さんを見ていた。


「牛乳を飲んだ方がいい」

「ぶっ!」


思わず私も永恋さんと同じ様な反応をしてしまいそうになりながら寸での所で持ち堪える。
冨岡さんは牛乳に入っているかるしうむを取れと言いたいのだろうか。


「そ、そういう事ご本人の前で言っちゃ駄目ですからね!」

「何故だ」

「怒ります。間違いなく怒ります」

「ならば尚更…」

「駄目です」


私も永恋さんの意見に同意です。
お二人の喧嘩、と言うか不死川様を怒らせる事が少し減ったと隊内で噂になっていたがやはり永恋さんのお陰だったのか。

私は出来る限りの愛想笑いをして、冨岡さんに礼を言った。

前向きに捉えれば彼は私に同情してくれたのだろう。


「不死川様、口は悪いけど良い方ですよね」


取り繕う様に私へ笑い掛けた永恋さんに頭を上下に振る。

そう、今回叱られたのも私がただヘマをしたからなのだ。


「じゃあ一つ私から助言を」


にっ、と溌剌とした笑顔の永恋さんは私の耳元に顔を寄せ不死川さんのご機嫌取り向けの甘味を教えて下さった。

とても良い香りがした。


「ふふ、早く不死川様の機嫌が直るといいですね」


そう言って永恋さんと冨岡さんと別れる。

歩く永恋さんの腰に手を添えた彼の手をしっかりと目に焼き付けながら最後にもう一度お礼を言って教えてもらった甘味を買いに行く。

あんなお二人を見られたのだからきっと上手く行く。

甘味を買って帰り、しっかりと謝罪と今後の目標を伝えれば不死川さんは悪く無いと言って甘味を口一杯頬張ってくれた。


お二人はやはり私の幸運の女神と神だ。

今日あった事を同士に話してやればズルいと枕を投げられたが、いつ終えるか分からないこの命。

推しを目に焼き付ける事が私の楽しみなのだと仲のいいお二人を思い出しながら任務へ向かった。

今日は久し振りに自分の手で鬼の頸を斬れた。



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