屋敷に帰り、私と義勇さんは道場に来ている鬼殺隊士の鍛錬をすぐに始めた。

とは言え稽古が始まりまだ少ししか経っていないからここに辿り着いた隊士は極僅かではあるけれど。


「さて、そろそろ休憩にしましょうか」


義勇さんの稽古についてこれる者はまだ居ないけれど、休憩はしっかり取らなくてはいけない。

いつも通りお握りと温かいおかずを出していれば、外に出ていた義勇さんも帰ってきた。


「おかえりなさい」

「月陽」

「何です?」

「少し付き合って欲しい」


ぽい、と木刀を私に投げ渡す義勇さんに口角を上げる。
義勇さんと稽古なんていつぶりだろうか。


「皆さん、お食事中申し訳ないですが少し移動してもらえますか?」

「は、はい!」


一言声を掛ければ遠回しに避難して欲しいと言ったはずなのに、すぐ近くの縁側に腰掛けこちらを見ている。
柱同士の稽古はそんなに気になるのだろうかと思いながら木刀を構えた。


「行きますよ、義勇さん」 

「全力で来い」

「はい!」


こちらを見据える義勇さんに返事をして私は一歩強く踏み出した。
ずっと背中ばかり見てきた。
けれど、私だってもう柱だ。

鬼殺隊から遠退いていた期間だって鍛錬は欠かさずしてきた。

立ったままの義勇さんの真横に一瞬で飛んだ私は利き手である右手を狙う。
けれどこんな攻撃すぐに躱されるのは分かっている。


「月の呼吸 参ノ型」

「水の呼吸 肆ノ型」

「弥生!」

「打ち潮」


ガツ、と重い音が道場内に響き渡る。
やはり力では男である義勇さんのが強い。

打ち合った木刀が手を痺れさせるほど震えた。
けれどそれだけで私は諦めたりはしない。

直ぐに態勢を変えて少し距離を置き、木刀を顔の真横で構える。


「肆ノ型 卯月」

「!」


一歩、私の方が素早く飛び出した。
三段突きなのは義勇さんも理解しているだろう。

でも、私の突きは三段階に渡って深くなるから生半可な払い技ではブレたりしない。


「参ノ型 流流舞い」

「っ!」


私と義勇さんはお互いの技を全て知っている。
何度となく、私はその美しい型に目を奪われ心を奪われた。

けれど2年経ったのはお互い様。
技の速度が磨かれている。

突きを躱されては私が隙だらけの状態になってしまう事は明らかだ。


「っ、まだ!」


木刀が当たるか当たらないかの所で避けた義勇さんが横に薙ぎ払おうとしているのを視界の端で捉えながら持ち手を一瞬で変え縦に構える。
顔のすぐ横で木刀が当たる音に耳を痛くしながら何とか攻撃を受け止めた。


「相変わらず綺麗な動きですね」

「月陽も、無駄が少なくなった」

「むぅっ!」


私達は隊士達が居るのを忘れて互いに打ち合った。
やっぱり義勇さんは強い。

きっと2年前と比べ物にならないくらい。
技の精度も、速さも違う。

義勇さんは、かっこいいな。
稽古をしているのに、不覚にも胸がキュンとする。


「義勇さんっ!」

「あぁ」

「これが、私の…全力です!」


お互い少しだけ息が上がっている。
試合だったら確実に私に旗は上がらないだろう。

でも、私だって知ってもらいたい。
頑張ってきたんだって、義勇さんに少しでも並び立てる女なんだって。


「俺が受け止める」

「全集中、月の呼吸…終ノ型・改」


この技は、日輪刀でないと威力は発揮しないけれど。


「十六夜ノ舞」


刀を構える義勇さんの目の前から姿を消し背後に降り立った私は舞うように連撃を与える。


「水の呼吸、拾壱ノ型 凪」


既の所で私の木刀を受け止めていた義勇さんがそう呟くと、一際大きな音が道場内に響き渡り互いに動きを止めた。


「…折れた」

「折れたな」


止まって木刀を見れば私の方は綺麗に割れているような形で長さが半分以下になっている。
反して義勇さんの方は割れた部分から木の破片が飛び出していて危ない。


「…差がよく出てますね」

「そんな事はない」

「どうやったらこんなに綺麗に割れるんですか」


音も無く私の木刀を斬った義勇さんに苦笑しながらその場に座り込む。
私は連撃した状態で木刀を弱らせたのに、義勇さんは凪の一撃で木刀を割った。

恐らく義勇さんの木刀が割れたのはその威力についてこれなかったからなんだろう。


「うあーっ、悔しい」

「強くなったな」

「うぅ、もっと精進します…」


もう息の整った義勇さんが私に近付いて頭を撫でてくれる。
嬉しいけどやっぱり悔しい。


「すげぇ!月陽さんの技初めて見た!」

「終ノ型、めちゃくちゃ綺麗だったな…」

「水柱も凪ってなんだあれ!水の呼吸にそんなもんあったのか!?」


突然わっ、と縁側から聞こえた声に振り向けば余りに夢中過ぎて忘れていた隊士達がこちらを熱い眼差しで見ている。
何だか気恥ずかしくて義勇さんを上目遣いで見れば私にしか分からない程度に微笑んで最後にもう一度頭を撫でてくれた。


「柱ってやっぱり凄いよな!」

「月陽さん可愛いし強いし、冨岡さん羨ましいなー」

「バカお前、聞こえるぞ!」

「…あはは!義勇さん顔怖い!」


やっぱり鬼殺隊は素敵な所だ。
眉間にしわを寄せた義勇さんのほっぺたを突きながら私は笑い声を上げた。




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