「月陽」

「何ですかー?」

「寂しくはないか」


台所で昼御飯の準備をする私の背後に現れ抱き締めてくれた義勇さんへ振り返れば少しだけ不安そうに瞳が揺れている。


「蒼葉さん、ご結婚されるそうですよ」

「本当か」

「蒼葉さんと離れるのは寂しいけど、私にはこんなに素敵な旦那様が側に居てくれるので大丈夫です」


背の高い義勇さんの頬辺りに頭を擦り付ければ同じ様に返してくれた瞬間、簪がゴツと首に当たったらしい音が聞こえた。


「ぶふっ…」

「………」

「すみません、考えなしに擦り寄ってしまいました」


痛かったのか無言で首を抑える義勇さんに吹き出してしまいながら振り返れば腰を引き寄せられる。

ちゅ、と唇が一瞬触れ思わず瞬けば薄く目を細めた義勇さんが私を見つめていた。


「………な、何を…」

「仕返しだ」

「もう…本当、不意打ちはやめて下さい。死人が出ますからね」

「それは困るな」


久し振りでは無いにせよ、暫くこの顔を見ていなかった私は熱くなった顔を両手で隠す。
義勇さん顔がいい自覚絶対ある。こんな事自信が無い人は絶対出来ない。


「顔がいいと褒めてくれたのは月陽だろう」

「心の声聞くのやめてください…」

「読んではない。お前が分かりやすいだけだ」


隊士の人達がすぐ近くに居るというのに義勇さんは関係無いのか耳元や項に口づけしながら楽しそうにそう告げた。

本当にそういう所だと思う、私は。


「義勇さん、ほら。お昼作れません」

「月陽の飯を振る舞うのか」

「そりゃ、皆さんお昼食べてまたここに来るの面倒でしょう」

「……」

「ふふ、拗ねないで下さいよ」


さっきまでカッコよかったのに今度は可愛くなって私をどうしたいのだろうか。
よしよしと髪を撫でれば納得してくれたのか渋々離れてくれた。

軽くおかずを作ってお盆に乗せた食事を運ぼうとすれば近くで見守っていた義勇さんが先に手に取ってしまう。


「あ、」

「俺が運ぶ。月陽は俺と別で食べるから部屋に食事を持っていってほしい」

「分かりました」


これだけは譲らない雰囲気が出ていたので笑いながら頷いて義勇さんの背中を見送った。
そして、棚に手を伸ばし使われずにいた二対の箸を取り出す。

二年前に買った、夫婦箸。


「…やっと、使えるようになったよ」


随分と待たせてしまったね、なんて返事もしない箸へ話し掛けながら私と義勇さんの分を居間へ運ぶ。
道場から雄叫びが聞こえたけどそんなにお腹減ってたんだろうか、なんて思いながら座って待っているとすぐに義勇さんが姿を現した。


「ありがとうございます」

「あぁ」

「皆お腹減ってたんですね」

「…そうだな」


何だかムスッとしている様な気がするけど、まぁいいかとお箸を差し出す。


「やっと使えますね、あなた」

「……!」

「えへへ、何か擽ったいですね」


あなた、なんてまるで夫婦みたいだ。
いや、夫婦なんだけれど。

目を丸くして私と箸を見る義勇さんに照れ笑いして見せればすぐに微笑み返してくれる。


「悪くないな」

「ふふふ。さて食べましょうか」

「あぁ、いただきます」


なんて穏やかで幸せな時間なんだろうか。

前みたいに向かい合って食事をする、それだけなのに嬉しくて、幸せで。
お腹が減ってたはずなのに胸が一杯になってしまって視界が滲んでしまう。

鬼舞辻を倒した訳ではないから、泣くのなんてまだ早いのに。


「…涙が出るようになったんだな」

「っ、すみ…ませ…お食事中なのに」

「いい」


箸を置いた義勇さんが泣く私をそっと抱き締めてくれる。
帰ってこれたんだと思ったら涙がなかなか止まらなくて、それでも義勇さんは何も言わずずっと側に居てくれた。

やっと泣きやんだ私と冷めてしまったご飯を今度は隣で食べる。


「ごめんなさい」

「謝る事じゃない」

「冷めちゃいましたもん」

「些細な事だ」


普段食事中は余り喋らないのにきちんと言葉を返してくれる義勇さんが気を使ってくれてることが分かってまた更に申し訳なくなる。

相変わらずご飯粒をつけた義勇さんの口周りを綺麗にしてあげていれば口を動かしながら私を見つめてきた。


「?」

「泣いた顔も愛らしいが月陽は笑ってる顔のが好きだ」

「…ふふ、もう。口の周りのご飯きれいになってからそういう事言ってくださいよ」

「!?」


本人は笑わせる気なんて全く無かったのだろうけど、台詞と米粒だらけの顔が合ってなくてつい笑ってしまった。

私は義勇さんと出会えて、本当に幸せ者だと思う。


「そんな所も愛してます、義勇さん」


柔らかそうな頬に口付ければ驚いた顔の義勇さんにまた私は笑い声を上げた。




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