「蒼葉さん、お世話になりました」

「いいんだよ」

「…蒼葉さんが居て、凄く凄く助かりました」


皆の記憶が戻り、私は鬼殺隊へ戻った。
戻った以上私が蒼葉さんのお家にお邪魔させてもらう理由は無い。

何より、蒼葉さんが危険だ。


「夜は必ずこの香を焚いて寝て下さいね」

「いつも月陽が焚いてた香じゃないか」

「はい。実はお店にも同じ物を置かせてもらってました」


藤の花の香を渡して、使い方を教える。
鬼を狩る者としてこれからは行動しなくてはならない。

お世話になった分のお返しには程遠いけれど、鬼舞辻を倒した後少しでもまたお手伝いに来ると伝えれば大丈夫だと言って頭を撫でてくれた。


「夜はもう営業する気は無いんだ」

「えっ、どうして」

「こんなあたしをね、好きだって言ってくれる人が居てね」

「…そうなんですか。蒼葉さんなら、きっと大丈夫ですね!」

「夫も、許してくれるかな」

「えぇ、きっと。でも、少しヤキモチ妬いてるかもしれませんね」


何となく、蒼葉さんのお相手が分かった私は二人で笑いあった。
蒼葉さんなら大丈夫。
絶対に幸せになる。

きっとあのお医者様だと思うから。


「月陽」

「はい」

「また顔を見せに来ておくれよ」

「勿論です!」


私の身体を抱き寄せて頭を撫でてくれる。
温かいこの手に何度救われてきただろうか。

悲しませない為にも、私はまた生きて此処にこなくては。


「冨岡さんとお幸せにね」

「はい。蒼葉さんも」


義勇さんも本当は来たがっていたけど、柱稽古に参加した為来れなかった。
けれど渡された物があると、懐に入れていたあるモノを取り出す。


「これ、義勇さんからです」

「なんだい?」

「御守ですって。どうか健やかに長生きして下さいと言っていました」

「あら、嬉しいね」


蒼葉さんは、どうか長生きして幸せになって欲しい。
たくさんたくさん頑張って、そして人に優しくしてきた人だから。

御守を持った蒼葉さんがふと視線を下に落としてしまう。
地面に落ちる雫に気付いて私は眉を下げた。

もしかしたら、私達の覚悟に気付いているのかもしれない。


「あたしは、子供が居ない」

「蒼葉さん?」

「それでも、死んだ夫と過ごした日々は幸せだったよ。子供が全てじゃない、そう思うし時間が全てでも無い」

「…はい」

「あんたら二人、誰よりもお似合いだよ。本当に、おめでとう。」


涙を浮かべながら笑顔を見せてくれた蒼葉さんはとっても綺麗だった。
色々言葉を飲み込んでくれたんだろう。
本当はもっと別の言葉を言いたかったんだろう。

そう思う。


「では、私も稽古がありますので」

「お腹が空いたらいつでも帰っておいで。待ってるから」

「はい。行ってきます!」


私にはたくさんの居場所が出来た。
義勇さん、珠世さん、そして蒼葉さん。
鬼殺隊も勿論私の居場所。

笑顔で蒼葉さんへ手を振って義勇さんが待つ道場へ帰る。

昼過ぎになるから隊士の人達にも何かご飯を作ってあげようと思い、町で買い物を済ませた。


私は、柱の減った鬼殺隊で月柱に就任した。
こんな状況だから、柱の人達を集めはしなかったけれど鎹鴉の伝言で恐らく聞いているはず。

釦も金色になった隊服を着て、私は柱としての責務を負う。


明日はお館様の元へ行く日だ。


「義勇さーん、ただいま帰りました」

「お帰り」

「蒼葉さん、御守喜んでましたよ」

「そうか」 


数人の隊士の人達が道場の床にへたり込んで居るのを見て苦笑しながら義勇さんへ報告をする。


「永恋さんお疲れ様です!」

「えぇ、お疲れ様です」

「月陽はもう永恋じゃない」

「へっ!?あっ、すみません!」

「ふふ。教えてないんですからそう怒らないでくださいよ」


私達が結婚した事は柱の方々とお館様達にしか教えていない。
隊士の人達が私を永恋で呼ぶのも仕方ないのだけど、それでも義勇さんは気に入らないのかちょっとだけ眉を寄せていた。


「えっ、月陽さん水柱と!?」

「そうなんです」

「まじすか…」

「こんな時だからこそ、一緒になろうと思って」


何故か肩を落とす隊士の人に水を渡して回る。
何人かは蒼葉さんのお店に来てくれていたから名前は知らないけど顔は覚えていた。

私が鬼殺隊だったと言う事自体知らない人も多かったのに、柱になったと言う事を知ると余計に驚かれた。
まぁ初対面が団子屋さんの店員だったのだから仕方が無い。


「でもまさか月陽さんが鬼殺隊で、しかも狐の君だとは…」

「言われてみれば触ってこようとする客の手余裕で捻り上げてたもんな…」

「どういう事だ」

「ひぇっ!」

「ほら義勇さん、突然会話に入ってきたらびっくりしちゃいますよ。はい、水でも飲んで休んでて下さい」


会話の流れ的にとても面倒くさそうだったので、割り入ってきた義勇さんの手を掴んで水を渡した。

何だか懐かしいな、なんて思って残り少ないであろうこの時間を過ごす。

私個人で稽古はしないけれど、義勇さんのお手伝いくらいの感覚で二人掛かりの訓練をする事になっている。
午後は私も頑張るぞと思いながら蒼葉さんのお宅に行く前に用意したおにぎりとおかずを取りに台所へ向かった。








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