「無理しなくていいよ、姉さん」
「何言ってるの…あたしが居なかったらお前は毒で死んでた…あたしが居なかったら焼け死んでた癖に!」
「…ごめん」
「お前はっ…お前はお父さんとお母さんがどれだけ大切にされていたか分かってないから鬼殺隊なんかに居るんだ!!」
泣き叫ぶ様に怒鳴った陽縁に謝罪しながら拳を強く握った。
「知ってるよ。父さんと母さんにどれだけ愛されてきたか。でも、私も二人みたいに誰かを守りたい」
「自分の身すら守れない半端者が誰かを守る…?その前にお前が死んで終わりだ!」
「だって姉さんが居るじゃない」
姉さんの手にもう一度触れて、そっと寄り添う。
「ありがとう、姉さん。守ってくれて」
「…あたしは、鬼舞辻に勝てない。あいつに狙われたら、あんたを守る事だって」
「鬼殺隊には私だけじゃない。強い柱や、その未来を担う若い子達が居る。だから、大丈夫だよ」
ね?って、姿の見えない父さんと母さんに問えば優しい風が私達を包んでくれた。
「鬼舞辻を倒すまで、私は死なない。死にたくない。だからお願い、姉さんの力を貸して」
「……あんたはあたしが憎くないの」
「どうして?」
「あたしは鬼。今は人の記憶を食べて生きてるけど過去には人を喰った。何より…この力を持っていながらお父さんとお母さんを、守れなかった…」
「……二人の事は私だってそうだよ」
「鬼狩りのあんたが、あたしを許していいの」
そう問われた私は二人のお墓を振り返って、小さく頷く。
縋るように私の手を震えながら握り返す陽縁の頭に手を伸ばし、優しく撫でる。
「償おう。私と一緒に、鬼舞辻を倒そう」
「…力になれるとは限らないわよ」
「精一杯、誰かの為に頑張れば巡り巡って陽縁自身の為になる。父さんも、母さんもきっとそれを願ってる」
「………うん」
今度はちゃんと握り返してくれた陽縁を抱き締めてあげれば、小さく嗚咽を洩らした。
父さん、母さん。
私達頑張るから。
だから、見守っててほしい。
「そうと決まれば珠世さんに連絡しよう」
「…珠世?」
「陽縁に助けてもらった後ね、珠世さんと愈史郎君って人に助けてもらったの。彼らも鬼なんだよ」
珠世さん達のことを軽く説明すれば陽縁の眉間にシワが寄っていく。
悪い話では無いはずだけど、その理由が分からなくてオロオロしてしまう。
「やだ」
「え、えぇっ…どうして…」
「あたしはお父さんとお母さんの所に居る」
「うぅ、それは有り難いけど」
すくっと立ち上がった陽縁はやっぱり小さくて何だか妹の様だと思ったけどあえてその言葉を飲み込んだ。
怒られそうだし。
「おいで、手当してあげる」
「え、あ、ありがとう」
「…月陽」
「ん?」
「…………んね」
血鬼術で傷を消してくれた陽縁が聞き取れるか聞き取れないかくらいの声で何かを言った。
けど、私にはちゃんと聞こえた。
「私こそ、ごめんね。姉さん」
「…ほんと。手の掛かる妹」
「ふふ」
「血鬼術は解いた。お迎え来たわよ」
「お迎え?」
「死んだらアンタの事、一生許さないんだから」
「あっ、姉さん!」
パチン、と指を鳴らしたと同時に消えてしまった陽縁に手を伸ばせば誰かが走ってくる足音が聞こえる。
「……義勇さん」
「月陽」
「どうし…ぶわっ!」
現れた義勇さんに勢い良く抱き締められ思わず変な声を上げれば更に力が強くなる。
血鬼術は解いたと言っていたけど駆けつけるの早すぎじゃないだろうかと義勇さんの背中をよしよしと擦れば暫く首筋に埋めていた顔を上げてくれた。
「すまなかった」
「そんな…謝る必要なんか無いですよ」
「記憶を取り戻すのが遅くなった」
「ん?血鬼術は解かれてますよ?」
それにしては駆けつけるのが早かったですけどね、と付け足せば義勇さんは眉を寄せて少しだけ傷の残る頬を擦った。
「…いつだ」
「多分、今」
「なら違う」
「えっ、思い出してくれてたんですか!?」
だから今此処に居るのか、と思うと同時に唇を塞がれる。
優しく触れるだけの口付けが暫く続くと義勇さんがゆっくり離れていく。
「有難う、月陽」
「…こちらこそ」
「会いたかった」
「急に居なくなって、本当にごめんなさい」
そう言えば義勇さんは無言のまま首を振って私をもう一度強く強く抱き締めてくれた。
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