だから会いに行った。
折角お父さんに言われてあの崩れ落ちる寸前の家から助けてあげたと言うのに、結局私に刀を向けてくる月陽。

その日は私という存在を月陽に教えてあげたけど、記憶は喰ってやった。

最近新しく血鬼術が使えるようになったから試してみたかったのもあるし、この程度の取得したての血鬼術を解けないならばアイツに敵う筈が無い。


「記憶を喰えばお腹が満たされるのネ」


空腹感が無くなり、無駄に山を降りて人を喰わなくても良くなるのはとても助かる。

月陽が作った二人のお墓に行って、葉っぱや泥水で汚れた墓石を拭う。


「お父さん、お母さん。やっぱり私にはあの子と仲良くなんて無理」


だって違うんだもん。
正反対の環境で育った妹が羨ましくて妬ましい。

そんな環境にいるにも関わらず命を粗末にするあの子がやっぱり腹立たしくて仕方が無かった。


「精々後少しの猶予を楽しんだらいいわ」


二人の墓に詰んできた花を添えてその場を後にする。

そして結局私の血鬼術を解けなかったあの子にお仕置きをしてあげた。
だけどボロボロになったあの子にとどめを刺すことは出来なかった。

だから血鬼術で遠くの地へとあの子を飛ばし鬼殺隊全体の月陽に関する記憶を喰い、資料も全て消し去った。


もしかしたら死んでるかもしれないけど、悪運の強い子だから仮に目を覚した時誰にも覚えられてないという絶望に膝を付けばいい。
ひとりぼっちと言うものを痛感すればいい。

そう思っていたのに、あの子は挫けなかった。

冨岡と言う男の記憶は念入りに消しておいてやったのに、あいつは何なんだ。
どうして月陽に近寄る。
折角、折角私が遠ざけたと言うのに。


「気に入らない…」


思い通りに1つも事が進まない。
それだけでも気に入らないのに、更には柱達が段々月陽の記憶を取り戻してるという事にも腹が立った。


「月陽」


上弦の参と戦い散々な怪我をした挙句、また鬼殺隊の手伝いをした為に今まさに月陽は兄妹鬼の毒で死にかけている。

このままほっとけばいずれ死ぬ。


「……ちっ」


踵を返してその場を後にしようとした私の脳裏に幼いあの子を抱き上げて笑う二人が思い浮かんだ。
私が鬼である以上解毒薬なんて必要もなければ持ち合わせても居ない。

呼吸で毒の巡りを遅らせていたようだけど気絶をした今止めるものは何も無い。


「血鬼術、月ノ祈」


傷口にそっと手を置き毒を受けた身体の記憶を喰う。
これで少しはマシになるはずだとすぐに立ち上がり、こちらへ向かってくる足音と逆の方へ走った。


「っ、ゴホ」


毒を喰ったせいで少量の血を吐く。
すぐに再生するから気にしないけど、嫌な毒だと口を拭った。

月陽が憎い。
憎いのに、どうしても殺す事ができない。

何度も殺す機会なんてあった筈なのに、いつもいつもお父さんとお母さんの顔がちらついて邪魔をする。


あんたなんか、もう私がこんな風に悩まない様さっさと普通の男と付き合って結婚してくれたらいいのに。

そうしたらこんな悩み抱えずに、お父さんとお母さんの側で一生を終えて地獄に行けるのに。


「姉さん」


兄妹鬼との死闘を経て、今度は刀鍛冶の里とやらで上弦と出会したと聞いた私は月陽に会いに行った。
けれど、予想外の言葉をかけられ思わず思考が停止した。

何度もあの子に私が姉であると言ったけれど、まさか本当に呼ばれる日が来るなんて思わなかったから。

ドキドキと感じたことの無いこの感情は何なのか。


「本当に、本当に私を殺したいのなら1週間後そこに来て」

「…わざわざ殺されに来るのォ?」

「父さんと母さんの近くで死ねるのなら本望だよ」

「あっそォ…揶揄いに来たけどつまんないネ」

「姉さん、私待ってるから」

「…じゃあね」


意識を月陽に飛ばしていたのをやめて、冨岡の屋敷から少し離れた所に居た私は胸を抑えた。


「もう、嫌だ。嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!」


感情が上手く操れない。
こうしたいと思っている筈なのにいつも真逆の事ばかりする自分が嫌だ。
それをさせてくれないあの子も嫌だ。


「私を、姉さんだなんて呼ぶな…!」


こんな風に私の心を掻き乱されるくらいなら、
あの子が鬼舞辻無惨のような者に殺されるくらいなら、
いっその事私が殺してあげればいいんだ。


「…一週間後。一週間後ね…私が、楽にしてあげる。だって、お姉ちゃんだもの」


お父さんやお母さんと一緒に逝きたいって、言ってたもんね。

ズキズキと痛む頭を抱えて月を見上げた。
陽縁と言う名前を持つのに太陽と縁の無くなった私。

あの子を殺して、私もあの場所で死ねばいい。


「どうせ私は地獄行きだもの。お母さんお父さんにお土産くらい置いていかなきゃね」


そして最期くらい、太陽の暖かな光を浴びて消えよう。
そう決意した。



Next.





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