「こんにちは」


私は狐の面をつけて、物干し竿を下ろすアオイちゃんへご挨拶した。
当たり前のようにその場で片手を上げ挨拶する私に驚いてるのか口を開けたまま固まってしまっている様子が可愛らしくて思わず吹き出してしまう。


「あ、あなたは…狐の君…」

「そうです。炭治郎と禰豆子に会いに来たのだけど、しのぶさんは居るかな」

「しのぶ様は今出掛けてます。しかしもしあなたが来た場合には上げて大丈夫だと、仰せつかって居ます」


直ぐに冷静さを取り戻したアオイちゃんに流石だなと感心しながら面の下で笑みを浮かべた。
ありがとうと言った私にちらちらと視線をやりながら炭治郎の元へ案内してくれる彼女にそっと面を取り素顔を見せる。


「面の下が気になるなら外すよ?」

「へっ!?あっ、そのっ…不審に思っていた訳では…」

「しのぶさんの指示だとしても得体の知れない人間が来たなら疑うのは間違いじゃない。世の中には鬼だけじゃなく、悪い人も居るからね」


焦ったような素振りを見せるアオイちゃんの頭を撫でればきゅっと口を結んでしまった。
この子がしている事は間違いじゃない。

しのぶさんが不在の今、全員が屋敷を守らなくてはいけないという気持ちを持つことはけっして悪い事ではないから。


「しのぶ様からは大切なご友人と聞き及んでおります。しかし貴女の素性が分からない以上、警戒を解くことは出来ません」

「それが正解」

「ですが、しのぶ様や炭治郎さんが貴女を大切だと仰る以上…私も信じたいと思います」

「……えっ、ちょっ…キュンってしちゃった。ありがとうアオイちゃん。好きです」

「んなっ!?」


私の発言に立ち止まったアオイちゃんに抱き着いて頬擦りする。
なんて素晴らしい子なんだと思いながらしのぶさんは流石だなと思う。
さっきからそんな事ばかり思ってる気がするけれど。

無理矢理剥がされいいじゃないかと茶番をしてる内に目の前から小さな女の子ともう一人、見た事のある姿がこちらへ走って来た。


「禰豆子…!」

「おねえ、ちゃん」


口枷を外し嬉しそうに飛び付いてきた禰豆子を受け止め抱き上げる。
小さい時の禰豆子ではなく、多分年相応の姿をしているんだろう。


「禰豆子、禰豆子。良かったね、凄いね」

「あ、あり、がとう」

「この前も、吉原の時もありがとう。生きててくれて嬉しい」


一生懸命に話す禰豆子に涙目になれば可愛らしい笑顔が私に向けられる。
覚えているのかは分からない。

でも、その笑顔は私に向けられている。

それだけで胸が一杯になった。


「可愛いぃー!愈史郎君てば見る目なーい!」

「愈史郎さんとは何方ですか?」

「えっ、い、いや…何でも…」

「おね、え、ちゃん。こっち」


今度は禰豆子に手を引かれて炭治郎の元へ向かう。
この屋敷の子は、禰豆子を大切にしてくれている。

なんて優しい場所だろうか。


「では私はやる事があるのでここで失礼します」

「え、もう行っちゃうの?」

「はい。帰る際はこの屋敷の者にお声掛け下さい。しのぶ様のご友人を見送りもなしに帰らせる訳にはいかないので」

「…うん、分かった。ありがとう」


お礼を言った私にアオイちゃんやなほちゃん達、そして禰豆子も一緒になって行ってしまった。
本当なら兄妹揃っていて欲しかったけど、禰豆子のやりたい事があるのなら仕方が無い。

扉を叩けば炭治郎の返事が聞こえる。


「炭治郎、久し振り」

「月陽さん、こんにちは!」

「…随分と今回も怪我、してるね」


後ろ手に扉を締め近寄れば嬉しそうに笑顔を見せてくれる炭治郎の頭を撫でた。
そうすれば照れ臭そうに頬を赤く染めた炭治郎の目から涙が零れる。


「良く頑張ったね、炭治郎」

「す、すみません。何で、俺」

「何の話?」


ポタポタと布団に涙が落ちる音を聞きながら背中を撫でてあげる。
炭治郎はとても強い子だけど、私からしたらまだまだ子どもだ。


「禰豆子、良かったね」

「っ、はい…」


禰豆子が陽の光を浴びた瞬間どれ程怖かった事だろうか。
簡単にしかあの時の事を聞いていない私でも、炭治郎の心にはとても負荷が掛かった事だけは分かる。


「いいんだよ、炭治郎。泣いたって。今は私しか居ないから」

「う、っ…ぐっ…」


禰豆子は炭治郎にとって守りたいと思う存在であり、そして何にも代えられない心の拠り所でもある。
その大切な禰豆子が消滅してしまうと思った瞬間の炭治郎の気持ちは当事者でない私には計り知れない程のものだろう。

遅くなってしまったけれど、やっとこうしてきちんと炭治郎を抱き締めてあげられた事に私も安堵の息を溢した。




Next.





「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -