「どうするんだ?」
「私は帰りますよ。ここは隊士の方が使うべきですし、蒼葉さんの所に帰らなきゃ」
「なら俺の屋敷に来い。蒼葉殿には連絡はしておいた」
「え!?」
とりあえず少ない持ち物を纏めようと側で見守っていた義勇さんに言われ危うく水差しを落としてしまう所だった。
驚きも隠さずそちらへ振り向けば近寄ってきた義勇さんに抱き締められる。
「月陽が上弦と戦ったと聞くといつも不安になる」
「すいません」
「かと言って俺はすぐにそちらへ行くことも出来ない。見ていない所で月陽がいなくなってしまうと考えると怖くて、堪らない」
ぽつりぽつりと話す義勇さんに私は眉を下げる事しか出来ない。
抱き締めてくれるその胸板に無言で擦り寄る。
「一泊でいいですか?」
「あぁ」
「なら行きます」
義勇さんが蒼葉さんに連絡してくれたというのなら少し遅くなって帰っても大丈夫だろう。
私個人的にも後でかー君にお願いして連絡すればいい。
今は、義勇さんの側に居てあげたい。
何も言わずに私の荷物を持ってくれた彼の側に近寄り、そっと腕に寄り添う。
「…言い忘れていた」
「?」
「良く頑張った」
「えへへ、ありがとうございます」
頭を撫でてくれた義勇さんに笑い掛ければ薄く唇が弧を描いた。
蝶屋敷を出る前にしのぶさんへ一声かけて感謝を伝えると、まるで私達の行動を予測していたかのように困ったように微笑み返してくれる。
「月陽さんに無理させては駄目ですからね」
「分かってる」
「道中お気をつけて」
「ありがとうございました!」
手を振ってくれるしのぶさんに同じように振り返して蝶屋敷を後にした。
黙々と相変わらず無口な義勇さんの少し後ろを歩いているけれど、やっぱり歩く速さはゆっくりと私に合わせてくれている。
「預かった物は家に保管してある。お前が気に入るといい」
「えぇ、楽しみです」
たまにある会話が心地良くて暖かく吹いた風に目を閉じる。
やっぱり好きだなぁって、そよ風に靡く義勇さんの後ろ髪を眺めた。
あっという間に義勇さんのお屋敷についた私はお邪魔しますと言って、初めて会った時に持たれていた門を跨ぐ。
「荷物はここでいいか」
「はい、ありがとうございます」
「…月陽」
居間の隅に荷物を置いてくれた義勇さんにお礼を言うと名前を呼ばれた。
両腕を僅かに開いた彼はまた無表情だけれど、まだ不安の色は消えていなくて私はそこへ飛び込む。
「おかえり」
「…ただいま」
記憶が戻って私におかえりと言ったわけでは無いのだろうけれど、なんだかその言葉が嬉しくて口元が緩む。
顔を上げていれば義勇さんの整った顔が近づいて来て、私は当たり前のように目を閉じて受け入れる。
覆い被さるように抱き締め何度も角度を変えながら啄むような口付けが段々と深いものに変わって息が上がってしまう。
「ん、」
入り込んできた義勇さんの舌が口内を荒らし背中がぞくりと震えてしまう。
何とか息継ぎをしようとするのにそれすら許さないと言うように唾液が絡められ思わず胸板を叩いた。
上顎を舐め上げた義勇さんが渋々と唇を離すとどちらのものか分からない唾液が口の端から零れ落ちる。
「煽るな」
「っ、こうさせたのは、義勇さんですよ…!」
「そうか」
口の端を拭っていると、先程より不安の色が消えた義勇さんが額に唇を押し付けてくる。
それはいいのだけど、お腹に当たる感触が気になって仕方がない。
「…あの、当たってます」
「そうか」
「そうかじゃないです」
「…すまない?」
「ん"っっ…!!」
こてん、と首を倒した彼が可愛らしくてついつい唇を結んでそっぽ向く。
この可愛らしさに流されては駄目だと必死に耐えていると意外にも身体を話したのは義勇さんだった。
「無理はさせないと約束した」
「なら最初からこんな事しないで下さい」
「抑えきれなかった」
「…まぁ、嫌ではないですけど」
ちょっとだけしゅんとした義勇さんの羽織を掴んでそう言えば、僅かに目が輝いた。
いや、流されないぞ。
嫌ではないけれど、する気は無いと首を横に振ればまた肩を落としていた。
「あ、」
しょんもりと座布団の上に正座した義勇さんは机の上に置いてあった桐箱に手を伸ばしそれを私に差し出す。
「これ、」
「これならいつでも付けていられる」
首飾りに付けられるように日輪刀の形をしたそれが手の中で光った。
「義勇さん、ありがとうございます」
「あぁ」
父さん、おかえりなさい。
そう心の中で呟いて首飾りに形見を通す。
そんな私を義勇さんはとても優しい目で見てくれていた。
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