「玄弥、しっかり…」

「ふざけるな。お前たちのこの匂い…血の匂い!!喰った人間の数は百や二百じゃないだろう?」


玄弥の肩を叩こうとした私の声より大きく響いた炭治郎の怒号が辺りに響く。
私でさえ皮膚が痛くなるような声に思わず背筋が伸びてしまう。


「…流石炭治郎だね」


なんて強い子なのだろうと思う。
魚に掴まれた時からズキズキする肋の痛みに歯を食いしばり炭治郎に迫る鬼へ向かった。


「…ほう、貴様が月の呼吸を使う女か。アレと一緒の呼吸を使うと聞いたが何だ、ぼろぼろではないか」

「あんなのと一緒にしないで」

「他愛も無い」


ドン、と太鼓が叩かれた瞬間足元から木の竜が生えその場を飛び退く。
斬れない事は無い。動きも段々と読めてはくる。

けれど、


「くっ…」

「俺に構うな!」

「そんな事出来ない!」


上弦の肆の動きについていけていない玄弥を守りながら戦わなければいけない。

この子達は必ず私が守らなくては。


――柱ならば後輩を守るのは当たり前だ。


そう、私はまだ柱では無いけれど。
杏寿郎さんが信じて託したこの子達は必ず私が守る。


「捌ノ型 葉月!」


鬼も私のしようとしている事が分かっているのか、炭治郎や玄弥を重点的に狙ってくる。
玄弥を狙って三体の竜が襲い掛かってくるのを乱れ斬りで斬り落とせば次に炭治郎へと竜が向かう。


「っ…!」


駆け出そうとした私の耳に鼓膜がおかしくなりそうな程の超音波のような奇声が聞こえ思わず耳を塞ぐ。
この竜とあの鬼を相手出来るのは現状私だけ。
けれど私は一人しか居ない。


「動、け…うごけっ…!」


目眩がする。
炭治郎の痛がる声がする。


「クソッ!」

「禰豆子!玄弥!炭治郎!!」


ふらついてる内に三人が竜に捕まり私は叫び走り出す。
一気に三人は助けられない。

三半規管がおかしくなった私の耳にこちらへ向かってくる足音が聞こえる。


「蜜璃、さん」

「キャーッ!すごいお化け!なあにアレ!」


木の竜を斬り炭治郎を助けた蜜璃さんの背中を見て思わず声が出た。
月夜に照らされる蜜璃さんはとても美しかった。


「わた、しも…頑張らなきゃ」

「ちょっと君!おイタが過ぎるわよ!禰豆子ちゃんと玄弥君を返してもらうからね!」

「黙れあばずれが」

「えっ…」


刀を握り締め上弦の肆へ怒る蜜璃さんに対する言葉に思わず痛みさえ忘れて目が点になる。

い、いやいや。
蜜璃さんはあばずれじゃない。

格好はアレだけど別に蜜璃さんがそうしたかった訳じゃない。
そう思いながら蜜璃さんへ視線をやれば顔を青ざめさせ私を見る瞳と目があった。


「……」


ふるふると首を横に振って私が否定すると、口をキュッと結んだ蜜璃さんが頷く。


「!蜜璃さん!」

「恋の呼吸 参ノ型 恋猫しぐれ!!」


雷鳴のような攻撃が放たれ、蜜璃さんがそれらを斬る。
あんなに扱いの難しそうな刀を使えるのはきっと蜜璃さんだけだ。

感覚も少しずつ戻ってきた私も禰豆子と玄弥を取り戻す為に立ち上がり蜜璃さんの援護へ回る。


「月陽ちゃん!大丈夫!?」

「はい!援護します!」

「キャーッ!月陽ちゃんと初めての共闘だわ!私、頑張る!」


余り笑っていられる雰囲気でも無いけれど、蜜璃さんの笑顔は同性の私でも士気が上がる。


「恋の呼吸・弐ノ型 懊悩巡る恋」

「月の呼吸 参ノ型 弥生」


徐々に早くなってくる血鬼術だけど、蜜璃さんが来てくれたお陰で格段にやりやすさが上がる。

蜜璃さんには攻撃の波動を、私は木の竜を。
分担していけば炭治郎も守りつつ戦える。


「血鬼術 無間業樹」

「拾壱ノ型 霜月」

「伍ノ型 揺らめく恋情・乱れ爪!」


広範囲の術を受ける為に私は木の竜を凍らせ蜜璃さんがそれを斬り刻む。
地面に降り立った私は鬼の頸に迫るその姿に目を見開きもう一度地を蹴る。


「蜜璃さん!近寄っちゃ駄目!」

「そいつは本体じゃない!!頸を斬っても死なない!」


口を開き血鬼術を使う瞬間蜜璃さんの羽織を掴みこちらへ引き寄せる。
庇うように抱き寄せた蜜璃さんと共に地面へ倒れ、余りの痛みに視界が霞んだ。

攻撃を食らう瞬間、抱き寄せた筈の蜜璃さんが前に出て私を守ってくれた。


「…ぐ、っ」


こちらへ近寄る鬼に何とか這って気を失う蜜璃さんを庇う。
さっきの攻撃はきっと私では耐えられなかった。

でも、次こそは守ってみせる。


「ぐわあああ!!」

「!?」


刀を握り、覚悟を決めた私の目の前に三人の姿が見えた瞬間押し寄せた玄弥に押し倒される。

蜜璃さんも炭治郎と禰豆子が同じようにして抱き上げていた。


「立て立て立て!次の攻撃くるぞ」

「わかってるっつーの!!」

「月陽さんと甘露寺さんを守るんだ!一番可能性のあるこの人達が希望の光だ!二人が生きていてくれたら絶対勝てる!!」


その言葉に目を見開いた私は目を覚した蜜璃さんの目を合わせる。
この子達の想いに答えなきゃ。

ドン、と音が鳴った瞬間私を抱き上げてくれた玄弥を後ろへ押し出す。
守るんだ、私達が。
そう思いながら刀を構えた。






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