「鉄穴森さん…鉄穴森さんはどこ」


朝鉄穴森さんの所へ行ったらもうすぐで打ち終えるって言っていた。
明日には調整して完成になるって言ってくれていた事を思い出しながら建物の上に飛び乗ったその時だった。


「っ!」


異様な壺と食い散らかされたような遺体と血がそこかしこに散らばっている。

まるで地獄絵図のようだと思いながら壺を蹴落とそうとした時、手のような物が這い出て私の足を捕えた。


「中身入りなんて、聞いてない…!」


態勢を崩しながらもそれを蹴り飛ばし何とか壺から距離を取る。
日輪刀が無い今私がそれを破壊する術は無い。

ギョ、ギョと鳴きながら私に近寄る魚の動きを見ながら次の行動を考える。


(こんな所で足を止めてる暇はない)


刃の無くなった日輪刀の柄を握り締め、壺を割る機会を伺う。
魚に近寄り全力で殴れば割れるはず。


「く…ッ!」


勢い良く私に手を伸ばしてきた魚にわざと捕まり喰らおうとしてくる瞬間柄を全力で壺に叩きつけた。
破片が飛び散り手や顔に傷を作るけれどこんなもの軽傷だ。

胴体を締め付けていた圧迫感が消え咳込みながら納屋の中へ入る。


「早く、早く刀を探さなきゃ」

「あぁっ、鬼殺隊の方!やっと見つけました…!」

「!」


声が聞こえて振り向けば、先程の女性を抱えて逃げたはずの男性が血みどろで立っている。
足元を見れば夥しい程の血を流し、素人の目で見ても助からないと分かる程だ。

刀を大切そうに持ち、崩れて落ちていく身体を支えれば顔につけていたお面が落ち優しい顔をした青年が涙を流しながら私にしがみつく。


「お願いします、お願いします。どうか里を、里をお救いください」

「どうして、こんな…」

「私達は、刀を打つしか、脳がありません…貴方達に頼るしか、託すしか出来ないから」

「そんな事…!私達だって貴方達が居なければ鬼に対抗できません。ごめんなさい、私のせいで…逃げられたはずなのにっ…」

「優しい方だ…私のような…者にも、涙を流してくださる、なんて」

「っ、」

「お願い、します…」


青年は人のいい優しい笑みを浮かべたまま動かなくなってしまった。


「…必ず、守ります。刀を届けてくれてありがとう。少し、待っててくださいね」


動かなくなった青年を奥の床へ寝かせて立ち上がる。
鍔を見れば私の物だと分かる。

この青年はきっと私の日輪刀を探す為に色々な場所を探して回ってくれたんだ。
歯を食いしばり、抜刀すれば刀身が透明になっていく。


「雑魚を殲滅しつつ炭治郎の所に行かなきゃ」


雷が落ちたような光景を何度も視界に捉えている。
納屋を出て、そこかしこに溢れる血鬼術によって作られた魚を殲滅しながら宿へ向かった。

やっぱり自分の刀は使いやすさが全然違う。


「全員自分の身を守りながら隠れて!」

「月陽さん!」

「壺を見掛けたら必ず距離を取り絶対近付かないようにして下さい」


この辺りの壺は全て排除した。
避難誘導しながらまた悲鳴の聞こえる方向へ向かっていると誰かの影が見える。


「み、蜜璃さん!?」

「あら、狐さ…?」

「はっ!」

「………あの、ごめんなさいね。見間違いだったら申し訳ないのだけどもしかして、」


目の前から走ってきた蜜璃さんについ名前を呼んでしまってから今自分が面をしていない事に気付く。

一瞬で面を付けたけどバレてしまっただろう。

気まずそうな蜜璃さんに冷や汗をかきながら言葉の続きを待っていると、言いかけた言葉を止めて目を閉じた。


「な、何でも無いわ!狐さん!」

「……や、何だか気を使わせてしまって申し訳ないです」

「みみみ、見てないわ!」

「いえ、他の方に黙っていてくだされば十分ですから。またお会いしましたね」

「…月陽さん」


必死に頭を振る蜜璃さんに何だかこちらが申し訳無くなって面を外せば大きな瞳を瞬かせながら笑い掛けてくれた。

そして一歩ずつ歩み寄りながら進め刀を構える。

同時に地を蹴った私達は背後に出た壺を割ってそのまま他にも湧き出た敵を消していく。


「流石狐の君ね!かっこいいわ!」

「いえいえ、さっきまで日輪刀無くて苦戦してました」

「えぇっ、大丈夫なの?」

「はい。勇気ある里の人が私に届けてくださいましたから」


一匹も逃さず片付け終わり蜜璃さんに近寄る。
あぁ、やっぱり蜜璃さんの笑顔は素敵だなと思う。

強くて、可愛らしくて明るくて、周りの人を幸せにする女の子。


「そうなのね!今は緊急事態だから、またゆっくり…月陽ちゃんとお話したいわ」

「えぇ、勿論です」

「嬉しい!約束よ」


小指を立てた蜜璃さんに頷いて同じ様に絡める。


「私は炭治郎が泊まっている宿へ向かいます。蜜璃さんは鉄珍様の所へお願いできますか?」

「えぇ、分かったわ!炭治郎君と禰豆子ちゃんの事、よろしくね」

「はい」


優しい笑顔に励まされて私は強く頷いた。
蜜璃さんは二人を応援してくれてるんだろうって思えたから。


「それじゃあ、また」

「えぇ!」


二手に別れ蜜璃さんに背を向け走り出す。
無一郎はどこだろうかと探すけれど、あの子ならきっと大丈夫だと信じて大きく壊れた宿へ向かった。





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