またきちんとお礼をしに来ることを奥様へ伝え、無一郎と共に貸してもらっている部屋のある家へ歩きながら帰る。
「まだ頭は痛むの?他は?」
「たくさん休ませてもらったからもう大丈夫だよ」
「何かあったらすぐに言ってね。僕が医者に連れて行ってあげるから」
「うん、ありがとう」
道中、これでもかと心配してくれる無一郎の頭を撫で目を細める。
この優しさをもう少し周りの人間に分けてあげられたらいいのにと思いながら、腰に差してある刀に目をやった。
「…ねぇ、無一郎。少し話があるんだけど」
「何?」
「あのね、これは無一郎だけに言える事じゃないんだけど、自分の周りの人はきちんと大切にしなきゃ駄目だよ」
「…月陽やお館様達の事は大切にしてるよ?」
「ううん、そうじゃなくてさ」
不思議そうに首を傾げたら無一郎の手を握り目を見つめる。
悪意が無いからきっと心当たりも無いんだろうと思いながらも、しっかり言い聞かせるように話を続けた。
「私達は鬼を狩る。刀鍛冶の人達はその為の刀を打ってくれる。それは分かるね?」
「うん」
「刀は使う人間が居なくちゃただの飾りになってしまうけれど、使う人間が居てもより良い刀を打ってくれる人が居なくちゃ私達は何も出来ない」
「そうだね」
淡々と私に返事をしてくれる無一郎はきっと何を言わんとしているのか理解してはいないのだろう。
悪いと思っていないから尚更。
けれどそこを変えていかなければ無一郎の為にならない。
目をくりくりと丸めながらこっちを見る無一郎はとても可愛いけれど心を鬼にしなくては。
「刀鍛冶の人達だけじゃなく、自分に関わる人達も大切にしなきゃ駄目だよ」
「どうしてそんな面倒くさいことしなくちゃ駄目なの?」
「それはね、人と人は心で通じ合うものだからだよ」
そっと無一郎の胸に手を当て目を伏せる。
「大切にしてくれない人を大切にしたいと思う?」
「別に大切にされなくても興味無いし」
「無一郎はそうかも知れないけど、悪い事をすれば悪い事が自分へ返ってくる。良い事をすれば良い事が自分に返ってくる。因果応報って言葉もあるけど、それだけじゃ悪い意味だけになっちゃうからね」
とりあえず私の言葉を聞いてくれているであろう無一郎に微笑みかけながら、少しでも伝わるようにと願いを込める。
「……でも、俺はすぐ忘れちゃうから」
「無一郎が忘れても、優しくしてもらった人はその優しさを忘れたりはしない。」
無一郎を胸の中に閉じ込め頭を撫でながら耳に顔を寄せた。
いつか私が言ってる意味が分かるといいな。
「誰かを叩いたり、殴ったりしては駄目だよ。正論が絶対正義とは限らないんだから。それに炭治郎は私のお友達なの」
「友だち…ふぅん」
「小鉄君だって無一郎より小さいんだから人の物を無理矢理奪ったら駄目だよ。分かった?」
何故か突然拗ねたように胸へ頭を押し付ける無一郎の頬を突けば頬を膨らませた。
可愛すぎてちゃんと怒れない…ごめんなさいお館様。
「月陽の言いたいことは分かったよ。でもいつの間に友達になったの」
「炭治郎達を見つけたのは、私と義勇さんだからね」
「何だ、そういう事」
「なに、ヤキモチ?」
「………月陽はいつも男に囲まれてるから」
ぷい、と顔を背けた無一郎にキュンと胸が鳴る。
お姉ちゃんを取られた弟みたいな感じなのだろうか。
炭治郎の事もわかったと言ってくれたからきっと大丈夫だろう。
もう嫌な話は終わり。
「ところでお昼ご飯は食べた?」
「ううん、まだだよ」
「私も寝てたからお腹減っちゃった!何か食べに行こう」
「いいよ。美味しい定食屋があるからそこに案内してあげる」
「やったー!」
無一郎を離せばすぐに手を繋いでくれて、定食屋へ行き先を変更する。
刀が出来たらまた別々の行動になるけれど、暫くゆっくりしようとさっきまで見ていた夢の事を頭の端へ追いやった。
「無一郎、年は無一郎のが下だけど鬼殺隊に入ったのは先なんだから優しくしてあげてね」
「…分かったって」
「ありがとう」
困った様に眉を下げた無一郎に笑いかけると、同じ様にして笑い返してくれた。
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