「はぁっ、はぁっ…父、さん」


あの夢はいつもと少し違った。
私の記憶にある夢は光が放たれすぐ目を覚ましていた筈なのに。

息を切らす自分の呼吸を整えながら辺りを見渡せば知らない部屋に布団が敷かれ、そこに寝ていたらしい私は掛けられた布団を握り締める。

ズキズキと頭も痛い。
近くに置いてあった湯呑みに手を伸ばし、乾いた喉を一気に潤わせ深くため息をついた。


「おや、お目覚めですか?」

「鉄穴森さん…」

「鋼鐵塚さんが貴女を抱えて運んできた時は驚きましたよ」


音も無く開いた襖から見覚えのある面が顔を出す。
それがすぐに鉄穴森さんだと気付いた私は居住まいを正し、やはりあの人が鋼鐵塚さんだったのだと思いながら頭を深く下げた。


「面倒を掛けてしまい申し訳ありません」

「いえいえ、いいんですよ。しかし随分と魘されていたようですし、もう暫くは休んでいかれるといいでしょう。家内にも月陽さんの事は説明してありますから」

「いえ、しかし…」

「ここは刀鍛冶の里。鬼も出ぬ場所ですから、少しはゆっくりして下さい」


鉄穴森さんに肩を押され、再び布団に戻される。
折角炭治郎や無一郎に会えたというのに不甲斐ない。
しかし今も頭痛は激しいのは確かではあるし、また無理矢理起き上がって迷惑をかけてしまうのも忍びない。


「…すみません、お言葉に甘えさせていただきます」

「えぇ、えぇ。そうして下さい。それでは私は刀を打ちに戻ります。何かありましたら家内もそろそろ戻るでしょうし彼女へ何なりとお申し付け下さい」


コクコクと頷いた鉄穴森さんはやかんを側に置くと、静かに襖を閉めた。


「……あの時、私を助けた光は何だったんだろう」


今まで考えた事はなかったけれど、疑問に思わなかった事が不思議なくらいあの光は異様なものだった。
あの時父さんは一つも動けなかったのに、7歳だった私を外まで飛ばす事なんて無理に決まっている。

仮に飛ばす事が出来たとしても、光が見えるのもおかしい。


誰が助けてくれたのかは分からない。
けれど、


「父さん、笑ってた」


笑っていたとなれば先ず間違いなく私達の敵では無いということ。
しかし珠世さんではない事は確か。

珠世さんに出会ったのは私が目覚めて遺骨や形見を掘り出していた最中だった。
偶然を装って来たにしても、鬼だと言うことを知っている以上隠す必要も無いはず。


「……っ」


何かが霞んだような感覚と頭痛に一旦考える事を辞めて頭を抱える。

刀が出来たら一度父さんと母さんのお墓参りに行こう。
そうすれば何か分かるかもしれない。

そう決めて布団に潜り天井を見つめた。
人の気配がしない家。

なぜだかとても寂しくなって体を縮こまらせた。


「起きたら無一郎の所に戻らなきゃ。話したい事もあるし…」


痛む頭を抑えながらまた目を閉じる。
鉄穴森さんと、鉄穴森さんの奥様と、それから鋼鐵塚さんにもお礼を言わなきゃ。

今度は何の夢も見なかった私は自分の体が揺さぶられるのに気付いて意識を浮上させる。


「月陽さん」

「……ん」

「お休みの所起こしてしまい申し訳ありません。時透殿がお迎えに来ましたよ」

「………鉄穴森さんの奥様!す、すみません!」


目を開けた先に居た女性にまた飛び起きて頭を下げれば、やんわりと微笑んだその顔に思わず見惚れてしまう。
同性から見てもとても美しい女性だ。


「主人から話は聞いております。お気になさらず。そんな事より歩けそうですか?無理そうでしたら時透殿をお呼びしますが…」

「い、いえ!大丈夫です!」


気を使ってくれる奥様に大きく首を振ればそれはそれはまた美しくはにかんで笑って下さった。
鉄穴森さん、こんな美女が奥様とはやりますねなんて思いながらぺこぺこと頭を下げて家の玄関まで歩く。


「月陽」

「無一郎!ごめんね、もしかして鉄穴森さんから聞いたの?」

「うん。大丈夫なの?やっぱり上弦との戦いの時の傷がまだ痛むんじゃない?」

「いや、そんな事ないから平気だよ!鉄穴森さんの奥様、面倒をお掛けして申し訳ありませんでした」


玄関で待っていた無一郎に声を掛け、後ろに立っていた鉄穴森さんの奥様へ頭を下げる。


「ふふ、元気なお嬢さんですね。先程も言いましたがお気になさらぬよう。主人の刀を大切に扱ってくださり、こちらこそ感謝を申し上げたかったのです」

「ひぇぇ、そんな!鉄穴森さんの刀が無かったら私今ここに居ませんし…感謝する事はあってもされるような事は…」

「刀鍛冶にとって、自分の打った刀は子どものようなもの。それを大切に扱ってくださる事はとても有り難い事なのです」


そう言って美しく頭を下げた鉄穴森さんの奥様に心が暖かくなった。
奥様は本当に鉄穴森さんを愛しているのだと、彼の打った刀を誇りに思っているのだと感じたから。







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