「………っっ!!」
「えっ、あれっ!月陽さん!?」
炭治郎の頭はまるで石のように硬く、思わず涙目になりながらぶつけた頭を片手で抑える。
痛すぎて言葉にならない。
「ごめんなさい!!!」
「いいんだよ、炭治郎…」
起きて早々土下座する炭治郎の肩を押して顔を上げさせながら未だにじんじんする頭の痛みに耐える。
打ち所が悪かったら今度は私が気絶する羽目になっていたかもしれない。
頭を上げてもなお謝り続ける炭治郎の可愛いおでこを撫でてあげれば不安そうな顔で見上げてくる。
「義勇さんにもなんて言ったら…」
「そこは本当に気にしなくていいところ、うん。兎に角もう謝るのは終わり!大丈夫だから!」
「分かりました」
どうしてそこで義勇さんの名前が出てくるのかは分からないけど、まだ私結婚してる訳でもお付き合いし始めた訳でもないからね。
うりうりと頭と頬を両手で撫でくり回していると、鼻を鳴らした炭治郎がこっちを不安げに見ていた小鉄君へ勢い良く振り返った。
「鋼鐵塚さんいた?」
「えっ」
「今ここにいなかった?」
「いえ、いなかったですよ」
鋼鐵塚と話を聞いた私はさっきの半裸だった人を思い浮かべたけれど、小鉄君が何やら誤魔化したようなのでその会話に入らず足についた砂を払い落とした。
お風呂入ったばかりだったけれどこればかりは仕方がない。
また夜に入ればいいし。
「柱の人は!?」
「鍵を渡したので行ってしまいました」
「…あの、炭治郎」
「はい!」
「その柱の子、私の弟なの。ごめんね」
弟、と聞いて炭治郎の動きが一瞬止まった。
必死の形相で似ている所を探しているのか、言葉にならない声を出しながら私の顔をまじまじと見ている。
「血は繋がってないよ。ただ私が勝手に弟みたいに大切に思ってるだけなの」
「そ、そうなんですね!道理で似てないと…あ、いや!」
「ふふ、いいの」
ここの里の人や、炭治郎が優しいと実感しながら首を横に振った。
似ている所を探したりはするけれど、誰一人として私にとっての無一郎の存在を否定する言葉は言わない。
「あの子はとても極端だから…炭治郎も起きたし何があったのか私も聞いてもいいかな?」
「は、はい」
「結局鍵っていうのは何の鍵だったの?」
「絡繰人形です」
そう言って小鉄君は絡繰人形がある場所へと私と炭治郎を案内してくれた。
そこでは既に無一郎が人形相手に刀を振るっていたのだけれど、私は別の所で驚く事になる。
(……似ている)
私を一度連れ去ろうとした黒死牟に。
しかし黒死牟とはまた違う雰囲気のある人形に頭の中が混乱した。
視界がぐらつき、頭が痛い。
無一郎に会ったら説教の一つでもしなくてはと思っていたのに脳震盪を起こしたかのように目が回る。
「…ごめん、炭治郎に小鉄君。無一郎には後でちゃんと言い聞かせるから、少し私先に帰るね」
「月陽さん?どうかしたんですか?」
「ちょっと長風呂しすぎちゃったのかも。水飲めば治ると思うから…」
そう言って私はその場をふらつきながら後にした。
しかし少し進んだ所で足場の安定しない地面に身体が倒れそうになる。
受け身を取ろうとした瞬間、硬い何かが私を受け止めてくれた。
「…すいません」
「おいお前、顔色悪いぞ」
「えっと…貴方は鋼鐵塚、さん…」
「あっ、おい!」
確か炭治郎がそう呼んでいた気がすると、その人の名前を呼んでみたけれどそこで私の意識は遠退いてしまった。
最後に聞こえたのは鋼鐵塚さんの焦ったような声。
そんな中、私はまた夢を見た。
父さんと、母さんが鬼に殺された日の夢を。
この夢を見るのは何度目なのだろうか。
力の無い私は母の顔が踏み躙られるのを助けられず、共に逝くことすら許されず光のような何かに弾き飛ばされ意識を失い目が覚める。
それでも今回だけは、何かが違った。
「父さんと母さんの最期の願いだ。頼む、生きてくれ。私達の可愛い可愛い月陽」
「や、や…やだ…」
「愛してるよ、月陽…さよならだ」
「父さん…っ、いやだ!」
そう言って手を伸ばした幼い私に微笑んだ父さんは、奥に視線を向けていた。
「 」
父さんが何かを言った瞬間、閃光が放たれ私が吹き飛んでいく。
何を言ったのか分からない。
分からないけど、父さんは誰かに何かを言っていた。
あの場に居たのは誰なの。
あの光は、誰が放ったの。
「――――っ!」
目を覚した私は混乱する頭が痛むのも気にせず勢い良く身体を起こした。
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