「月陽、遅かったね」
「ごめんね、お風呂入りに行ってた」
「そっか、それじゃあ仕方ないよ」
部屋に行けば既に無一郎が私を待っていてくれた。
もうそろそろ日も暮れるし、出歩くのを辞めてゆっくり部屋で過ごそう。
蜜璃さんに出会したら一緒にご飯誘われるだろうし。
絶対断れない自信しかない。
「でも無一郎も早かったね」
「うん。探してた物見つからなかったからとりあえず帰ってきた」
「そっかそっか」
「あれ、月陽ここに砂埃ついてるよ」
息を吐きながら無一郎の横に腰を下ろすと、すぐに側に寄ってきた手が私の肩に触れ離れる。
きっとあの男の子とやりあった時だろうけど、無一郎に言うのは気が引けて知らないふりをした。
「まったく月陽は抜けてるね」
「あはは」
「ここも、隠せてないよ」
「……な、ナンノコトデショウ」
「え?じゃあ虫にでも刺されたの?」
お風呂入った後だったから髪の毛を上げているのを忘れていた。
目を逸らしたけれど、頬を膨らました無一郎が首の痕をごしごし擦る。
落ちないけどね、うん。
「そうかもしれないね!きっとそうだ!」
「随分と独占欲の強い虫だね」
「は、ははは…」
誤魔化せなかった。
どうして無一郎がこの意味を知っているのか本来ならば小一時間程問い質したい所ではあったけれど、これでは私が泥沼にハマるだけなのでやめておいた。
「そ、そんな事より無一郎も刀折れちゃったの?」
「んー、まだ折れてはいないんだけどそろそろ作ってもらわなきゃいけないから来てみた」
「なるほど、頑張ってる証拠だね」
「月陽に比べたら特に何ともない鬼だけどね」
無一郎は柱だからきっと私が上弦と戦っている事は耳に入っているんだろう。
観察するように私の身体を見つめているから心配してくれているのだと分かるけど些か恥ずかしいものもある。
「傷はもう治ったから大丈夫だよ」
「本当に?」
「うん」
「なら良いけど。宇髄さんも、柱引退しちゃったし早く帰っておいでよ月陽」
「……そっか」
宇髄様の左腕は失くなっていた。
考えればきっと想像がつく事ではあったのだろうけど、やはり寂しい。
思えば義勇さんに簪を貰ったその日、宇髄様に会ったのもきっかけのような気がする。
明るく、派手好きで、ちょっとどころじゃ済まないくらい横暴な時もあったけど、何だかんだあの人を慕っている隊士は多かったと思う。
これからは育手としてやっていくのだろうか。
「機会があったら宇髄さんに会いに行ってきなよ」
「うん」
「大丈夫、結構元気だから。あの人」
ぽん、と私の頭に手を置いて笑い掛けてくれる無一郎に頷きながら微笑み返す。
いつも私達は死と隣り合わせで戦っている。
もしかしたらいつか私の番になるかもしれない。
「無一郎」
「なに?」
「私より先に死んじゃ駄目だからね」
「何言ってるの、月陽だって死んじゃ駄目だよ」
「うん、分かってる」
もうこれ以上、大切な人が居なくなるのは嫌だ。
私より幼い無一郎や炭治郎達には可能性がたくさんあるのだから尚更。
「月陽」
「ん?」
「俺が髪の毛乾かしてあげるよ」
「えぇー!いいの?お願いします!」
「うん、任せて」
雰囲気を変えようとしてくれたのか、そんな無一郎の提案を喜んで受け入れて手ぬぐいを渡した。
誰かに髪を拭いてもらうのはいつぶりだろうか。
無一郎は私より髪が長いからきっと手入れも大変なんだろう。
丁寧に髪を拭いてくれる無一郎の姿を鏡越しで見つめた。
「ぷっ…」
「どうかした?」
「何でか孫に髪を拭いてもらうおばぁちゃんの気持ちになった」
「そんな年じゃないでしょ」
「まぁね」
やっぱり無一郎は癒やしだ。
明るい笑顔を見てると私まで元気をもらえる。
と言ってもこの笑顔を見てるのは限られた人なのだろうけれど。
そう思うと少し勿体無いなと思う。
「今日はお互いに鬼狩りも無いしゆっくりご飯食べてたくさんお話しようね、無一郎」
「うん」
「はぁ可愛い」
下の子が居る人って本当に羨ましい。
皆きっと可愛くて可愛くて仕方が無いんだろうな。
多分、自分の弟は絶対大切にしようって思ってるはず。
無一郎のお兄ちゃんも、不死川様も。
きっと素直になれない何かがあっただけだ。
「安心して、私がたくさん愛情注ぐから」
「え?突然どうしたの」
「ううん、無一郎が可愛くて可愛くて仕方がないだけ!」
「そう、ありがとう。月陽もとっても可愛いよ」
「あぁぁ好き…!」
首の痕を見られた事も忘れ思う存分無一郎を撫でくりまわしながら楽しく夜まで過ごした。
夜までは。
Next.
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