「コンニチハ。ワシ鉄地河原鉄珍。」
「お初にお目にかかります、永恋月陽です。この度は鬼殺隊ではない私をお招き頂きありがとうございます」
「めっちゃいい子やん。可愛らしい顔しとるし、おいで。かりんとうあげる」
「えっ!?ありがとうございます!」
鉄珍様の居る部屋へ案内された私は手をついて頭を下げ挨拶をすれば、ころころと笑う声に緊張の糸が解れた。
小さくて可愛らしいのに、やはり長であるせいかどこか威厳もあるように感じられる。
緊張している私に気付いてくださったのだろう、かりんとうをくれた鉄珍様にお礼を言って一つ頂く。
うん、美味しい。
「しかし君も随分と大変な業を背負ってるんやなぁ」
「…と、申しますと?」
「ワシは少ししか聞いてないけど、ここまで来るだけでも随分と大変だったんやろ?少しでもゆっくりしていくといいよ。月陽ちゃん可愛いし眼福だし」
「ふふ、ありがとうございます鉄珍様」
少ししか聞いていない、と言うのはきっと嘘。
お館様から出来る限りの詳細を説明はされている筈。
それなのに鉄穴森さんも鉄珍様もこんなに優しくしてくれて凄く嬉しい。
かりんとうを食べ終わって鉄珍様に無一郎の泊まるお部屋と温泉の場所を教えてもらい先に身体を清めてから行こうと面を被り直した私は温泉のある場所へ向かった。
「温泉なんて久し振りだなぁ」
「あら?」
「わっ!?」
脱衣所を開けた瞬間先客が居たらしく、目の前に広がった桃色につい声を上げてしまった。
「あっ、貴女は…」
「きゃー!初めましてね、狐さん!」
「…は、はじめまして」
蜜璃さんもここに来ていたとは。
麗しい肌を直視するのは何だか申し訳なくて視線を逸らす。
どうしよう、まさか一緒になるなんて思わなかったから何も考えてない。
とりあえずここは出直そう。
「すみません、お邪魔してしまいますので私は」
「えーっ、待って!折角ですし一緒に入りましょう?」
「……し、しかし」
「狐の君ってやっぱり女の子だったのね!他の人達は会ったりしてたみたいだし、私もお話してみたかったの」
嬉しそうに両頬を手で抑えた蜜璃さんに罪悪感が私の胸を刺す。
会ってますよ。
私の作ったお団子も美味しいって食べて頂いていますしね、えぇ。
蜜璃さんに素顔を見られても誰かに言い触らすような人では無いから駄目ではないのだけれど、何故か裏切ってしまうような気持ちもあってなかなか素直に首を縦に振れない。
かと言ってこの掴まれた腕を振り解くなんて物理的にも気持ち的にも出来ない。
「…ひょっとして、迷惑だったかしら」
「いいえ!事情によって面は外せませんがそれでも宜しければ是非!」
「本当!?全然いいわよ、気にしないわ!」
蜜璃さんのお誘い断れる人とか居るの?
あ、義勇さんや不死川様辺りなら断りそう。
でも私にはこの純粋で可愛らしいお願いを断る事なんて出来ない。
結局髪は洗えないので、また夜にでも入り直そうと身体だけ綺麗にして湯に浸かる。
「……あ、あの」
「えっ、あっ!ごめんなさい!」
「どうかしましたか?」
「…いえ、その…狐さんは恋人がいるんだなって、思って」
「………」
義勇さんに付けられた痕の事を忘れていた。
ほっぺたが赤いのはお風呂のせいかと思っていたけれど、そういう事だったかと頭を抱える。
私の顔が気になってと言うわけじゃなくこれを見てたのね。
「…貴女は、大切な人は居ますか?」
「えっ?」
「異性であれ、同性であれ貴女に大切に思われる方はとても幸せなんだろうなと思いまして」
熱気が篭もる面を少し浮かせて空気を入れ替えながら別の話に摩り替えようとすれば、固まってしまった蜜璃さんに首を傾げる。
私何か変な事を言ってしまっただろうか。
何やらキュンと音が聞こえたような気がするけど。
「狐さんって優しいのね!初対面の私の事褒めてくれるなんて!」
「ふふ、何度もお会いしてますよ」
「えぇっ、本当?」
「はい。美味しそうにご飯を食べて、誰にでも分け隔てなく可愛い笑みを浮かべてお話してくれる貴女は同性の私でもとても魅力的に思ってます」
「ま、まぁっ!そんな所まで見られてたのね。恥ずかしいわ」
「恥ずかしい事なんて何一つありませんよ。素敵な事だと思います」
蜜璃さんが笑うと周りも笑顔になる。
それって本当に凄いことだし誰にでもできる事じゃない。
彼女の魅力の一つだから、恥じる事なんて何一つ無いのに。
照れたような、寂しそうな蜜璃さんの頭をよしよしと撫でて立ち上がる。
「すみません、先に出ますね」
「え、えぇ!狐さん、また会えるかしら」
「はい。今度は私から会いに行きます。いつか、一緒に甘い物でも食べに行きましょうね」
「本当?嬉しいわ!」
満面の笑みを浮かべた蜜璃さんに面の下で微笑み温泉を後にする。
本当はもう少し蜜璃さんと一緒に居たかったけれどそうもいかない。
「…熱くて死ぬ!」
お風呂で面を被るのは良くない。
本当に。
Next.
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