「すみません、ありがとうございました」
狐の面を被った私がここまで運んで下さった隠の人に頭を下げ刀鍛冶の里に入る。
お面の人が一杯居る…
鉄穴森さんも面を被っていたから、外に出る時だけ被っているものかと思っていたけれど違うようだ。
「さて、鉄珍様にご挨拶しなきゃだよね。どちらに居るんだろう」
腰を伸ばしながら中を見て歩くけれど、何分初めて来る場所でもあるので全く分からない。
ふと目の前に小さな男の子が飛び出て、反射的に抱き止めれば何故かぷるぷる震えている。
「こんにちは。大丈夫?」
「ヒィィ狐!?」
「…あ、そっか。ご挨拶するのに失礼だったね。初めまして、私は月陽って言います」
鱗滝様から戴いた面を外して男の子の目線に合わせ膝を地面に付け挨拶をする。
ここは秘境の地でもあるし、住人である彼等が面を取らないのと私が取らないのとでは意味が違う。
よろしくね、と手を出せば恐る恐る握り返してくれた。
その手は幼くも刀鍛冶の子なのだろう、所々豆が出来ていて子ども特有の柔らかさは感じない。
「俺は小鉄です。月陽さんは鬼殺隊の方ですか?」
「う、うん。まぁそんな所!鉄珍様に御目通り願いたいのだけれど、案内してもらう事って出来るかな」
「分かりました。長に声を掛けてくるのでちょっと待っててください!」
「あっ、走らないでいいよ!」
親指を立て私の方を振り返りながら走る小鉄君に声を掛けたけれど結局それは間に合わず盛大に転んでいた。
大丈夫かなと思うけどすごく可愛い。
守ってあげたくなるあの子。
「あ、今鬼殺隊の人来てるか聞くの忘れちゃった」
「あれ?月陽」
「無一郎!」
既に姿が見えなくなった小鉄君に手を伸ばしていたら今度は無一郎が私の目の前に飛び出してきた。
今日で二人目だよ。
そんなに飛び出す事ある?
一瞬で抱き着いてきた無一郎の頭を撫で繰り回していると嬉しそうに目を細めていた。
相変わらずの天使。
「元気だった?」
「うんうん、元気だよ!」
「月陽が居るなんて思わなかったから嬉しい。泊まっていくの?僕の部屋においでよ」
「いいの?行く!でもその前に鉄珍様にご挨拶してからね」
ふわふわしてるのに癖のある髪の毛に顔を押し付けて今すぐにでも無一郎とお茶をしたい欲を堪えた。
里にお邪魔している以上里長にご挨拶するのは当たり前の事。
私の返事に残念そうな顔をした無一郎だったけれど、一瞬考えた後何かを思い出したように手を叩いた。
「僕もやる事あったんだ」
「あ、そうなの?じゃあお互い用事を済ませたらお茶しようね」
「うん。月陽は挨拶して刀を頼むんでしょ、俺のが用事終わるの早いと思うし部屋で待ってるよ」
「分かった!良い子にしてるんだよー!」
無一郎の用事とは何だろうか。
ふと思ったけれども余り聞いてしまってもきっとあの年頃の子には良くないだろうし、夜にでも話してくれるかも知れない。
ボケっとしながら小鉄君を待っていると、後ろから私の名前を呼ぶ声が聞こえて振り向く。
「月陽殿ー!」
「鉄穴森さん!あ、えっと…初めまして…」
「はは。そう気を使わずに。長から月陽さんのお話は聞かせていただきました」
「そうですか…え?」
息を切らしながらコクコクと頷く鉄穴森さんに首を傾げる。
ひょっとして記憶があるのだろうかと淡い期待も生まれたけれど、鉄珍様から何か聞いたと言っている以上やはり記憶はないのだろう。
「月陽殿に関する記憶、資料全てありませんが自分の打った刀くらい見れば分かります」
「…折ってしまい申し訳ありません」
「いえいえ。月陽殿は二度も上弦の鬼に遭遇したと聞いてます。さぞ激戦でしたでしょう」
「そう、ですね」
「下弦やそれ以下の鬼と戦っても折る人も居ます。そんな中上弦の鬼との戦いを二度も耐え抜き貴女を守った刀を打てた事、誇らしく思っていますよ」
「鉄穴森さん…えぇ、いつもこの子には守ってもらいました。ありがとうございます」
義勇さんのお屋敷でお会いした事を覚えていないと言うのに優しい言葉を掛けてくださる鉄穴森さんに持っていた日輪刀を差し出した。
勿論、父さんの鍔も一緒に。
「どうか、またよろしくお願いします」
「勿論ですよ。こちらもお預かり致します」
「はい」
「里長の元へはそこの建物の奥に行った所にあります。私は今すぐにでも刀を打ちに行きますので」
「ありがとうございます!楽しみに待ってますね」
「えぇ、えぇ。それでは」
鉄穴森さんに頭を下げ、教えてもらった通りに鉄珍様のお屋敷へ向かった。
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