突然参加した義勇さんと雨音さんを入れて蒼葉さんの快気祝いをして数日。
「っうわー!!」
バキッと音を立てて私の日輪刀が折れた。
「派手に折れたな」
「まぁ明日刀鍛冶の里に行くならいいんじゃない?」
「うぅ…」
鬼の頸を刎ねようとした瞬間折れた私の後を義勇さんがすぐに補助してくれたから良かったものの、これが一人だったら大変な事になっていた。
今日は狐面と新しく買った一方的な愈史郎君とのお揃いの服で近くを見回る義勇さんと雨音さんと一緒に見回りをしていたから気を抜き過ぎたのかもしれない。
「やっぱり折れると悲しいですね…」
「私よく折るから気にしない気にしない!」
「そんなに?」
「うん!」
そう言えば雨音さんはお年を聞いたら26歳だった。
人は見かけによらないものだなと心底感じた私はこの前から少しずつお肌を整えようと決心したのだ。
刀鍛冶の里ではいい温泉があると言うし少し楽しみでもある。
「お前は折りすぎる」
「ついつい力篭っちゃうんですよね」
「はは…」
雨音さんは話してみると凄くいい人で、本当に義勇さんの事を慕ってるんだなと思う。
男性だと分かった以上前の様にヤキモチを妬く事はなくなったけれど、少しだけ羨ましくもある。
「月陽」
「はい」
「刀の件だが、里から帰ってきた頃には渡せる。預かっておくから家に来るといい」
「ありがとうございます」
再び付けるようになった簪に触れた義勇さんに刀のお礼を言えば頷いてくれた。
「……」
「あの、義勇さん?」
「貰ったのか」
「え、あ…これですか」
何故今まで突っ込まなかったのに突然気にするようになったのか、簪に目をやったままの義勇さんに何て返そうか迷う。
貰ったと言ったら誰からの物だと聞かれそうだし、その時義勇さんなんて正直に言えるわけもない。
「うーん」
「言えないのか」
「今は、秘密です」
「…………」
「ちょっ、拗ねないで下さいよ!」
自分の唇に人差し指を立てれば不服そうな雰囲気を出した義勇さんに少しだけおかしくなって笑ってしまった。
贈ってくれたのは義勇さんなんだけど、もしかして自分にヤキモチ妬いてくれてたりするのかな。
「ちょっとー!私居るんだから二人の世界入らないでよう」
「あ、雨音さん!」
「お前が勝手に付いてきてるだけだ」
「正反対な二人の反応がもう堪らない!好き!」
私と義勇さんに抱き着いた雨音さんの背中を笑いながら叩けば、その腕の中で更に抱き締められて眉を下げた。
「触るな」
「いいじゃないですか!私達もう友達ですし!ねっ、月陽」
「ふふ、そうですね」
「お前は男だろう。駄目だ」
「酷い!」
薄明るくなってきた空の下で私と雨音さんの笑い声を響かせ、蒼葉さんのお家に送って貰った私は玄関の前で少しだけ義勇さんと二人の時間を過ごした。
「起きたら行くのか」
「はい。暗くなる前には到着したいので」
「最近、上弦との交戦が立て続けになっている。気をつけて行け」
「分かりました」
頬を指を滑らせる義勇さんに身を寄せながら少しばかりの幸せな時間を過ごす。
柱の人達も記憶が戻る中、義勇さんの記憶はまだ戻る様子は無い。
もしかしたら血鬼術が強めに掛けられたのかもしれないけれど、こうして再び心を寄せてくれた事は本当に奇跡に近いのかも。
「…月陽」
「はい?」
「刀を取りに来た時は泊まっていくか?」
耳に顔を寄せた義勇さんの低く心地のいい声に背筋がゾクリとする。
魅惑的な笑みを浮かべ私を覗き込む瞳に目を逸らしながら袴をそっと握り締めた。
心臓に悪い…。
「そ、それは」
「雨音はその日使いにでも出しておく」
「……、考えてもいいですか?」
「あぁ」
顎に手を添えた義勇さんに上を向かされ触れるだけの接吻をされる。
明日からも頑張れそうと思いながら意外と厚い胸板に頬を寄せた。
「それじゃあ、義勇さんも帰ってゆっくり寝て下さいね」
「分かった」
「怪我、しないでくださいよ」
「あぁ」
「大好きです」
「…俺もだ」
一瞬だけ強く抱き締められ首筋にピリ、とした痛みを感じた。
すぐに義勇さんのせいだと分かったけれど、この人の独占欲は今に始まった事ではない。
こんなの無一郎には目に毒だから見せられないし、刀鍛冶の里に行く前でよかった。
あの子には色々とまだ早いし。
「何もないのか」
「え?怒ったほうが良かったですか?」
「いや」
「髪の毛降ろせば見えないし大丈夫ですよ」
「…その手があったか」
「こら」
心底残念そうに呟いた義勇さんのほっぺたを突けば、少しだけ頬を緩めてくれた。
こうしていると、この人が好きだなって再確認する。
「さ、そろそろ行ってください」
「分かった」
「おやすみなさい」
そう言って手を振れば顔を縦に振った義勇さんの姿が一瞬で消えた。
雨音さんの事があってからと言うものの、とても穏やかな日々を送れたし明日は早起きして早めに家を出よう。
蒼葉さんのお家に入り、身体を清めながら鏡の前で色濃い痕を少し眺めて布団へ入った。
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