「え、待って義勇さん。嘘だと言って」

「月陽は雨音が女だった方がいいのか」

「いや、そういう訳じゃないけど…あんなに綺麗な人が…」

「可愛いな」


未だに自問自答を繰り返す月陽が愛しくてそっと唇を奪う。

こんな事なら早く会いに来ていれば良かった。


「俺がこうしたいと思うのは月陽だけだ」

「…は、はい…」

「雨音は女家系で育った。だから………あぁなった」

「ごめんなさい、信じます…だ、だからその…ん、そろそろ…とめて…っ」

「ずっと会いたかった。ずっとこうしたかった」


近くにあった路地の壁に月陽を追いやり何度も啄むように唇を合わせる。
関係の名前などどうだっていい。

月陽が俺を好いてくれているのならば、もうそれだけでいい。


「ん、…っ」

「好きだ」

「ぎゆ、さん」

「月陽しか居ない」

「っ、はい…」

「信じて欲しい」


合間合間にそう囁やけば俺の胸を押し返していた力が徐々に弱まる。

雨音の外見など気にした事などなかった故に引き起こした勘違いではあったが、こうして仲直りが出来たのならそれでいいかと思う。

月陽には申し訳ない事をしたが。


「義勇さん、大好きです…!」

「俺もだ。勘違いをさせてすまなかった」

「へぇー、お二人ってやっぱりそういう関係だったんですね」

「ひぇっ!?」


抱き締めて互いの気持ちを確認し合う俺達の間に聞きなれた声が割り込んでくる。
突然現れた存在に驚いた月陽が腕から離れてしまい、雨音を睨めば頬をこれでもかと膨らましていた。


「邪魔をするな」

「えー、だって義勇さんがその女に振られたら慰めてあげようと思ったんですもん」

「あっ、雨音さん!?」

「やっほー」


離れてしまった月陽の腕を引き再び抱き寄せながら雨音に顔を見せないよう背中を向けさせる。

こいつは人も物も綺麗なものが好きだから危うい。


「あ、隠した」

「月陽は美しいからお前の目に入れたくない」

「え、え!?」

「そんなのちゃんと見てみなきゃ分からないじゃないですか」

「駄目だ」


駄々をこねる雨音から月陽を守る為に庇い続けていれば、痺れを切らしたのか今度は話し掛ける先を変えたらしい。

腰に回った腕をつついて、羽織の中に隠した月陽の耳に向かって顔を寄せた。


「ねぇねぇ月陽ちゃん、私が男だってちゃんと確かめたくない?」

「えっ!」

「振り払われたあの日の夜、義勇さんてば激しくて大変だったの」


その言葉に反応した月陽は勢い良く顔を上げて雨音の顔を見てしまった。
予想通り上手く事を運べた雨音は観察するように月陽の頭から爪先まで眺めると、口角を持ち上げ俺を見る。

これは面倒な事になったかもしれない。


「へぇ!隠の服着てたから分からなかったけど良い物持ってるね!気に入った!」

「……月陽はやらないぞ」

「ふふ、じゃあ綺麗な顔見せてくれたお礼に…はいっ!」

「え…?」


満足そうに笑顔を浮かべた雨音が月陽の手を掴み何かをしたらしい。
ぴたりと動きの止まった彼女の顔を覗き込み、次に雨音に掴まれている手に視線を移せば股間へと導かれた。


「ね?男でしょ?」

「あ…あわわ、本当だ…!」

「月陽に変な事をするな…っ!それにあの日は、将棋の相手をしただけだろう」

「いった!!」


すぐに手を引き剥がし雨音の頭に拳骨を落とす。
俺だってまだ触ってもらえていないのにこいつは。


「すぐに手を洗うぞ」

「い、いえ…別に、その直接触れた訳じゃないですし…」

「俺が嫌なんだ」

「私の汚くないのに。義勇さんの意地悪!」

「一生月陽に近寄るな」

「ひどっ!」


出来る限り雨音から月陽を遠ざけた俺は雨音を横目で睨んで町へと戻って行く。
何を言っても着いてくるあいつの事だから意味は無いのかもしれないが。


「あっ、ちょっ…私買い出しが!」

「俺もついていく」

「私もー!」

「お前は来るな」

「蒼葉さんの快気祝いなので仲良く出来ないならついてこないでください!」


さっきまでの空気は何だったのか、雨音の登場で色々と狂ってしまったが月陽の笑顔が見れたしそれでいいかと納得した。


「…義勇さん」

「どうした」

「あの、ごめんなさい。疑ってしまって…手も、振り払っちゃったし…しかも睨んじゃったしで私…」

「いい。過ぎた事だ」


こっそりと俺の耳に口を寄せた月陽が申し訳無さそうに肩を落とす様子に首を振って否定する。

雨音の事を説明しなかった俺も悪い。


「これからは、ちゃんと話し合おう」

「…はい」

「約束だ」


小指を絡ませ、前を歩く雨音の姿を見てこちらを向いていない事を確認し軽く月陽の唇に触れた。


「…もう、義勇さんてば」


赤くなった顔を隠すよう俯いた月陽の手を取り予定していた買い物を済ませ、久方振りに蒼葉殿の素へ顔を出した。

雨音には驚いた顔をしていたが、俺達二人を見て安堵した表情を見せてくれた蒼葉殿は突然参加したにも関わらず喜んで迎えてくれる。

隣を見ればいつもの様に笑う月陽が居て、心が穏やかな気持ちになった。

やはり俺には月陽が必要なのだと心から思う。

何ヶ月ぶりに食べた月陽の鮭大根はどの店のものよりも美味かった。




Next.





「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -