月陽に拒絶されてから二月、そろそろ顔を見ない生活にも嫌気が差し重い腰を上げて蒼葉殿の店へ向かった。

今日はいつもくっついてくる雨音も居ないから気は楽だ。


噂で蒼葉殿が怪我をされたと言っていたし、見舞いもしたい。

日中の営業のみなら終わる頃にでも顔を出せばきっとゆっくり話せるだろう。
そう思って訪れた店にはやはり月陽が居た。


「美味しい!幸せ!ありがとうございます後藤さん!」

「おう、喜んで貰えて何よりだ」

「きっと知り合いの隊士さんも喜びますよ」

「だといいけどな」


けれど月陽の横には別の男も居た。
楽しそうに男が持ち寄った物なのだろう甘味を二人仲良く並んで食べている。

男の声に聞き覚えはあるが隊士なのだろうか。
いつも俺が座っていた席に居て、隣には月陽が楽しそうに笑っていた。


「……義勇さん」


気配に気が付いたのか、顔を上げた月陽が驚きに染まった表情をこちらに向ける。

俺以外にそんな顔を向けないでくれ。
そう思っても拒絶された手前口に出す事も出来ずただ拳を握って月陽を見つめた。


「すまない、邪魔をした」

「うぇ!?水柱…!いやいや、こちらこそすんません!俺今帰るんで…っ」

「いい」


俺の姿を見た男は慌てて席を譲ろうとしたが、なぜだかそれを受け入れる事を拒否して二人に背を向ける。

やはりこんな俺では月陽の心を留めて置く事は出来ないのかも知れない。

後を追われないよう一瞬でその場から姿を消し、店から距離を取った。


痛い。
心が痛い。

月陽はあの男の事が好きなのだろうか。
俺の事はもう呆れてしまったのか。

女々しいと分かっていてもそんな考えばかりが浮かんで仕方がない。


「……月陽」


名前を呟くだけでもこんなに愛しいと思うのに現実はうまく行かないものだ。

彼女が生きていてくれる。
それだけでいいのだと思う事にしよう。


「あーっ!義勇さん見つけましたよ!」

「……買い物に出掛けたんじゃないのか」

「声掛けられて面倒だから帰ってきました」

「………………」

「ちょっと、引かないで下さいよー」


帰りがけに雨音と会ってしまった。
いつものように絡みつく腕を振りほどく気力さえない俺は先程の月陽を思い出して肩を落とす。

彼女だって引く手数多なのは知っている。

やはり俺には高嶺の花のような存在だったのだろう。


「元気ありませんね?義勇さん」

「お前に関係ない」

「えぇー!ケチ!」

「…気分じゃない。近寄らないでくれ」


足早に町を後にしようと歩き出しても雨音は絡んだ腕を離してくれる様子は無い。


「もしかしてあの隠の女に会ってきたんですか?」

「月陽は隠じゃない」

「あの日も彼女に手を振り払われてから変でしたもんね」

「仕事に支障はない」

「妬けちゃうなぁ。こんなに義勇さんを乱すあの子が羨ましい」


ずるいずるいと子どものように喚く雨音がやっと腕を離してくれる。
月陽に会いたい、話したい。

どうして泣いていたのか訳を聞きたい。


「駄目だ」

「え?あ、ちょっと!」


このままでまた会えなくなるのは駄目だ。
今すぐ引き返せば月陽に会える筈。

引き返して、拒絶されたとしても話を聞きに行く。

このままでは納得出来ない。


「義勇さん!」

「俺は用事がある」

「もーっ!」


雨音を置いて元来た道を走る。
途中隠とすれ違ったが、あいつが月陽と一緒に話していた奴だろう。

横目で見たら目が合った。


「お、お疲れ様です!」

「…お前は月陽の何だ」

「へ?!い、いや…ただの客っす!」

「…………」


無言で見つめればどんどん青ざめていく顔色に嘘は付いていないと判断をして背中を向ける。


「え、終わり!?」


何やら隠が突っ込んでいた気もするが特別な関係に無いのならそれでいい。
伊黒や時透に続いて敵が増えるのも面倒だ。

隠が帰ったのなら今頃店の片付けでもしている筈。

頃合いを見計らって月陽に声を掛けよう。
不安が今更になって鼓動に現れたが気にしないふりをした。





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